研究課題/領域番号 |
19F19751
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩谷 光彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60187333)
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研究分担者 |
LEON JENS 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-07-24 – 2021-03-31
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キーワード | DNA / 人工核酸 / 集積型金属錯体 / 金属錯体型塩基対 / 金属ナノクラスター / キラリティー |
研究実績の概要 |
本研究では、金属配位子を導入した人工DNA鎖を鋳型配位子として用い、種々の金属イオンの集積化と、引き続く還元等によるナノクラスターやナノ粒子の合成を目的としている。さらに、DNAのらせん性を反映したキラルクラスターの合成や、複数の配位子を有する人工DNAを使った異種金属クラスターの合成も目指している。 本年度は、金属配位子を導入した人工DNAオリゴマーを用いるとともに、核酸類縁体であるグリコール核酸(GNA)オリゴマーを鋳型とした金属集積を検討した。GNA骨格はキラルであり、両方のエナンチオマーを容易に合成できることから、キラルな金属集積や金属クラスター合成への応用を期待した。金属配位子として、Cu(II)イオンと2:1錯体を形成することが確認された5-カルボキシウラシル(caU)およびヒドロキシピリドンに着目し、主にCu(II)イオンの集積化を検討した。 具体的には、5-カルボキシウラシル(caU)やヒドロキシピリドンを核酸塩基部位に有するGNAモノマーを化学合成し、DNA自動合成機を用いた固相合成により数~20塩基長のオリゴマー(5’-(caU)nT-3’や5’-(caU)n-3’ (n = 5, 10, 20)など)を合成した。S体およびR体の両方のモノマーについてGNA鎖を合成したところ、いずれも良好な収率でオリゴマーが得られた。 配位子型人工GNAオリゴマーについてCu(II)イオンの滴定実験を行ったところ、Cu(II)の添加により円二色性(CD)スペクトルが大きく変化した。滴定の結果から、caU配位子とCu(II)とが2:1錯体を形成し、GNA二重鎖中にCu(II)イオンが集積したことが示唆された。さらに、S体とR体のオリゴマーでは反対符号のCDスペクトルが得られ、キラルな金属錯体集積が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、金属配位子型人工核酸を鋳型とした金属イオンの集積化、および金属ナノクラスター・ナノ粒子の合成を目的としており、本年度は以下の結果を得た。 (1)DNA類縁体であるグリコール核酸(GNA)を鋳型とした金属集積のために、5-カルボキシウラシル(caU)およびヒドロキシピリドンを核酸塩基部位に導入したGNAモノマーを合成した。 (2)DNA自動合成機を用いた固相合成法により、金属配位子を有するGNAオリゴマーを合成した。S体およびR体の両方のモノマーを用い、エナンチオマー・ジアステレオマーとなる配位子型GNA鎖を得た。 (3)5~20個のcaU配位子を有するGNAオリゴマーを鋳型とした、Cu(II)イオンの集積を検討した。円二色性(CD)スペクトルを用いた滴定実験から、GNA二重鎖中にCu(II)イオンが集積されたことが示唆された。 得られたCu(II)錯体の同定に課題があるものの、鋳型配位子である人工GNA鎖の合成や錯体形成の初期実験には成功しており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、5-カルボキシウラシルやヒドロキシピリドン配位子を導入したグリコール核酸(GNA)オリゴマーを合成し、Cu(II)イオンとの錯体形成を検討した。 次年度は、得られた金属錯体の同定を行うとともに、他の金属配位子を用いた金属イオンの集積化を検討する。さらに、金属配位子型人工DNA/GNAオリゴマーを鋳型として集積した各種金属イオンを還元し、金属ナノクラスター・ナノ粒子の合成を行う予定である。DNA/GNAの配列設計に基づくナノクラスター・ナノ粒子の精密合成を目指し、DNA/GNAオリゴマーの長さ・配列と金属ナノクラスター・ナノ粒子の粒径・モルフォロジーの相関を精査する。さらに、S体およびR体のGNAオリゴマーを鋳型としたキラルなナノクラスター・ナノ粒子の合成も行い、キラル物性、特に円偏光発光の発現を検討する。
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