研究課題/領域番号 |
19F19773
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
秋津 元輝 京都大学, 農学研究科, 教授 (00202531)
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研究分担者 |
SCHRAGER BENJAMIN 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2021-03-31
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キーワード | オルタナティブ食システム / ローカル食システム / 地域活性化 / 地理的表示 / 食料・農業遺産 / 食文化 |
研究実績の概要 |
研究分担者がこれまでに蓄積してきた研究実績をもとに、論文の刊行と学会・研究科における研究報告をおこなうとともに、研究分担者の日本での研究ネットワークを広げた。地理学の国際的雑誌であるCultural Geographiesに論文が掲載された。さらに、国内学術雑誌である『地理』にも論文が掲載された。研究報告としては、上智大学比較文化研究所の講演会での報告、人文地理学会での口頭発表、大阪市立大学で開催されたオルタナティブ地理学東アジア地域会議でのワークショップ報告、和歌山大学国際観光学研究センターでの報告、名古屋大学教養教育院でのシンポジウム報告などをおこなった。とくに、Cultural Geographiesに掲載された論文は「Using YouTube to share a collaborative ethnography project on artisan chicken in Japan」と題されたもので、YouTubeを利用して宮崎地鶏の生産と消費を紹介する一連のビデオを素材としており、地理学研究として先端的な内容である。 新しい調査研究としては、地域特産物と地域振興との関連に関する情報収集のため、京都にある総合地球漢学研究所(地球研)において開催された生態地域主義に関する研究集会や食と農に関する研究プロジェクトの年次集会に参加したり、亀岡市で開催された芸術と農がコラボされた祭典に参加したり、京都にある産消提携団体のイベントツアーに参加するなどして、調査ネットワークの基盤づくりと最新の動向把握に努めた。地球研のプロジェクトは研究代表者が当初から参画している研究であり、本研究を地球研プロジェクトに関連づけることにより、研究代表者と分担者との協力関係が明確となり、最終成果にむけて認識論的かつ方法論的な共通基礎を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者は、2020年6月に上智大学で開催される予定だったアジア研究の国際集会において「The power to conceal imported grains within Japanese food systems」が報告として承認され、7月にオーストラリアで開催予定だった世界農村社会学会議において「Corporate farm-to-table: commitment and pretense in the co-optation of alternative food discourse」が報告として承認されており、今年度の成果として公表する予定であったが、両会議ともに中止または延期された。後者は来年への延期となったので、その機会を利用したい。 今年度末から宮崎や沖縄で調査を実施し、日本でのローカル食品の比較研究に基づいて地域特産品と地域振興との関連について知見を深める予定であったが、コロナウイルスの影響により、この時期における調査開始が不可能になった。代わりに、すでに研究分担者が調査成果として蓄積しながら分析が手つかずであった消費者へのフォーカスグループインタビュー結果について、博士課程院生の援助を得ながら文字起こしをおこない、ローカル性や信頼、表示の有効性などをキーワードとしながら分析を開始した。 コロナウイルスが食品の消費動向や安全性に関わることから、今しかできない状況を積極的に考慮にいれて、生協や有機農産物の産消提携などのローカルな食の生産-消費システムが、現在の状況下でどのように対応しているかについて研究方向を修正した。他方、地鶏などの高級食材として提供される地域特産品の販売は、外食の自粛と観光客の激減によって、極めて厳しい状況にある。地域振興と結びつくこうしたプレミアム農産物のウイルス感染拡大への対応も、新たな研究課題として設定し、その成果の発信へとつなげる。
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今後の研究の推進方策 |
予想外の新型コロナウイルスによる感染拡大によって、現地調査を中心とする研究計画は変更を余儀なくされた。人の移動制限が課せられ、その終息について見込みが立てられない現状において、現地調査に代えて、すでに確立している人脈を利用しながら電話やメールなどによる資料収集をおこなう予定である。もちろん、終息後には現地調査を実施する。終息後の現地調査においては、特産品と地域振興の関連についての資料収集だけでなく、今回のコロナウイルス感染が地域に引き起こしたさまざまな問題、すなわちツーリズムやレストラン、特産物生産などへの影響を視野に入れて、地域の食料生産供給システムが未来に向けたオルタナティブな生産消費システムに果たす役割についても資料収集をおこない、考察をくわえる。 移動制限のある期間は、文献資料の探索にあてるとともに、すでに調査済である資料の整理をおこなう。とくに、博士論文の執筆の過程で研究分担者は食消費に関連した21のフォーカスグループインタビューを日本において実施したが、それらは十分に整理され分析されないままの状態にある。この資料について、謝金による雇用を利用して協力者の援助を受けつつ、文字起こしをおこない、内容をコード化し、国際的な学術ジャーナルに投稿し研究成果へと結実させる。さらに、これまでの研究の延長として、地鶏について「塚田農場」など生産から消費までをトータルにカバーする業者を対象にし、先行研究をより深く渉猟することによって理論的考察を充実させつつ、学術誌論文を完成させる。 中止なったり来年に延期となった学会での報告について、延期の期間を利用してさらに内容をブラッシュアップする。パソコンなどの関連機器を充実させつつ、対面だけでなくオンラインによる研究報告や研究フォーラムに参加することを通じて、研究公表と研究ネットワークの拡大を進める。
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