研究課題/領域番号 |
19F19785
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大野 博司 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50233226)
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研究分担者 |
SUN PEIJUN 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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キーワード | IgA / 大腸炎 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患(IBD)は大きくクローン病と潰瘍性大腸炎に分けられ、数年にわたり再燃と寛解を繰り返す。このような炎症反応にはいくつかの要因が関与しているが、腸内細菌も病態に大きな影響を与える要因の一つであることが示唆されている。いくつかの腸内細菌種についてはIBDの再燃と寛解時に相対量が変化することが報告されている。また、宿主IgAに結合した腸内細菌については宿主免疫系や粘膜層との相互作用が示唆されている。しかし、それらの菌の宿主への影響や、その作用機序については不明な点が多く残される。本研究では、IBD患者の寛解や障害を受けた腸粘膜層の回復に寄与する腸内細菌の同定を目的とした。本年度は潰瘍性大腸炎患者糞便中のIgA結合菌について解析を行った。Disease activity indexごとにIgA結合菌を比較した結果、寛解期・活動期でIgAに結合する菌が異なることが示された。各菌のIgA coating index (ICI)をもとに詳細な解析を進めた結果、寛解期ではLactobacillusが、活動期ではDoreaがIgA結合菌として増加していた。そこで、C57BL/6マウスにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎を誘導するととにLactobacillus 5菌株のmixtureを経口投与し、Lactobacillusの宿主への影響を評価した。その結果、有意差は認められなかったもののLactobacillusの投与により大腸炎の緩和がわずかに確認された。また、大腸組織の遺伝子発現量を解析した結果、IL-10やFoxp3など制御性T細胞に関連する遺伝子群がLactobacillus投与群で増加していた。以上の結果から、活動期・寛解期におけるIgA結合菌は大腸炎の促進または抑制に関与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は潰瘍性大腸炎患者糞便中のIgA結合菌について解析を行った。患者の糞便サンプルから、Disease activity indexごとにIgA結合菌を比較した結果、活動期・寛解期で変化するIgA結合菌を同定することができた。また、各菌のIgA coating index (ICI)をもとに詳細な解析を進めた結果、寛解期ではLactobacillusが、活動期ではDoreaがIgA結合菌として増加していた。寛解期で増加するIgA結合菌であるLactobacillusの宿主への影響を検証するためにC57BL/6マウスにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎を誘導し、Lactobacillus 5菌株のmixtureを経口投与したところ、有意差は認められなかったもののLactobacillusの投与により大腸炎の緩和を確認することができ、IBDの活動期・寛解期において異なるIgA結合菌がそれぞれ宿主に作用する可能性を見出すことができた。また、大腸組織の遺伝子発現量を解析した結果、IL-10やFoxp3など制御性T細胞に関連する遺伝子群がLactobacillus投与群で増加していた。このように、潰瘍性大腸炎患者において寛解期に増加するIgA結合菌としてLactobacillusを同定でき、本菌がマウス腸炎モデルで炎症の緩和をもたらすことを示唆するデータが得られたことから、順調に経過したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析で活動期・寛解期に特徴的なIgA結合菌としてDoreaとLactobacillusを同定したが、これらの菌の大腸炎における役割を検討する。具体的には、無菌マウスにこれらの菌(JCMから入手したtype strainを用いる)を定着させ、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎を誘導する。また、無菌マウスにDSSを投与したのち、回復期にこれらの菌を定着させることで、腸粘膜層の回復に与える影響を検討する。DSS誘導性大腸炎の急性期または回復期にマウスを解剖し、上皮細胞のダメージや増殖を解析するとともに、炎症や回復に寄与する免疫細胞の割合をフローサイトメーターにより検討する。また、これらの菌の作用機序に迫るために、糞便または腸管内容物中の代謝産物をGC-MSを用いて解析する。 上記の検討で大腸炎の寛解や障害を受けた腸粘膜固有層の回復に寄与する菌を同定することが困難な場合、大腸炎モデルマウスの腸内細菌から関与菌の探索を試みる。具体的には、DSS誘導性大腸炎マウスの糞便を急性期および寛解期に回収し、IgA結合菌の解析をIgA-seqにて行う。急性期および寛解期で増減がみられたIgA結合菌をマウス糞便から単離培養し、上記と同様に無菌マウスに投与することで大腸炎への影響を評価する。これらの解析により、IBD患者またはマウスから大腸炎の進行・回復に寄与する腸内細菌の同定を試みるとともに、その作用機序の解明を試みる。
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