研究課題/領域番号 |
19F19813
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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研究分担者 |
AKAL IBRAHIM 京都大学, 基礎物理学研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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キーワード | ホログラフィー原理 / 場の量子論 / 量子情報理論 / 超弦理論 |
研究実績の概要 |
当該年度は、研究代表者と外国人特別研究員は、場の理論の量子情報理論的側面とホログラフィー原理に関して主に3つの研究成果を得た。まず、ウェッジホログラフィーの発見である。通常のホログラフィー原理は、重力理論と1次元低い時空における場の理論が等価になるという関係であるが、反ドジッター時空をウェッジ状の空間に制限することで、重力理論が2次元低い場の理論と等価になることを見出した。エンタングルメント・エントロピー、相関関数、そして自由エネルギーの具体的な計算で、この新しい対応関係が正しいことを検証した。この研究は国際的にも高く評価され、プレプリント公開から半年程度の現在でも既に20回引用され、Physical Review D誌に出版され、Editor's suggestionに選ばれた。 次に、ブラックホールのホーキング輻射の模型である、Moving Mirror模型のエンタングルメント・エントロピーを二次元共形場理論で計算して、ページ曲線に従うことを研究代表者と外国人特別研究員は見出した。最近、ブラックホールの情報損失問題をアイランド予想で解決する話題が国際的にも活発に研究されているが、この我々の研究は、この問題にたいしてシンプルな模型を与えた。共形場理論のみならず、ホログラフィー原理を通じた明快な重力理論の模型も見出し、Moving Mirror模型のエンタングルメント・エントロピーの時間発展を完全に決定することに成功した。この研究成果は、Physical Review Letter誌に掲載された。 最後に、外国人特別研究員は、ブラックホールの情報損失問題のアイランド予想に関して、ゲージ理論に特有のSuperselection sectorの観点から考察を行い、アイランド公式が自然に解釈されることを見出して、プレプリントとして公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、場の理論の量子情報理論的な性質の解析をホログラフィー原理へ応用し、その理解を深めることを目的としている。本年度は、この研究に関して十分な成果がみられた。まず、研究代表者と外国人特別研究員は共同研究で、余次元が2の新しいホログラフィー対応を発見した。これはホログラフィー原理を二回組み合わせることで、ウェッジ領域の重力理論がそのウェッジの先端に局在する共形場理論と等価になるという新しい対応原理で、海外にもインパクトを与えた。これは、ホログラフィー原理を量子情報理論の視点で考えることで初めて生まれた成果であり、昨年度より継続してきた研究の成果である。より高い余次元への拡張や、ブラックホールの情報損失問題への応用など、これを応用した研究成果も海外の研究者によって多数得られている。Physical Review D誌に出版され、Editor's suggestionに選ばれるなど高い評価を得ている。 これに加えて本年度には、研究代表者と外国人特別研究員は共同研究で、Moving Mirror模型のエンタングルメント・エントロピーの解析の成果を得た。過去の文献では誤解されていた、境界がある場合のエンタングルメント・エントロピーの正しい解析法を明快に与えたことは、今後の様々な発展も期待され、業界に十分なインパクトを与えたといえる。実際に研究代表者は、この成果に関して海外の複数の国際会議に招へいされた。 以上の理由で、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2020年度の研究成果で得たMoving Mirro模型のエンタングルメント・エントロピーの解析法をもとに、さらにこの模型の詳細を解析したい。具体的には、Mirrorが二枚おかれたMoving Mirror模型におけるエンタングルメント・エントロピーの解析を行いたい。この場合は、2つのブラックホールが熱浴を介して対峙している状況の模型といえる。我々のホログラフィー原理に基づくMoving Mirrorの重力理論の模型では、世界の果てブレインが、Mirroに相当するが、これを二枚挿入することになる。この時にエンタングルメント・エントロピーの計算は、測地線の長さの計算に帰着するがこの測地線が、世界の果てブレインに端点を持つことができる。これにより、相転移に似た現象が期待される。この相転移現象をブラックホールの量子論として解釈することが目標である。
また、Moving Mirror模型では、Mirroは一見ダイナミクスを持たない境界と思われるが、ホログラフィー原理を介すると、ダイナミカルな世界の果てブレインに対応する。重力理論の解析を進めて、Mirrorである境界が実は一次元高い重力理論と解釈できると期待される。この問題をブレインワールドの考え方を用いて理解を深めたい。具体的には3次元の反ドジッター時空のホログラフィー原理に世界の果てブレインを挿入する模型で、この境界を2次元重力理論と関連付けることで研究を進める。既に研究代表者と外国人特別研究員はこの研究を開始している。
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