研究課題/領域番号 |
19F19814
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福島 竜輝 京都大学, 数理解析研究所, 准教授 (60527886)
|
研究分担者 |
JUNK STEFAN 京都大学, 数理解析研究所, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
|
キーワード | 高分子模型 / 大偏差原理 / 自由エネルギー / パーコレーション / 零温度極限 |
研究実績の概要 |
本年度は主にdirected polymer in random environmentと呼ばれる高分子模型の研究を行った.これは不均質な媒質の中の高分子の形状を記述する統計物理模型である.この模型について,高分子の端点を固定したときの自由エネルギーが端点を変数として非退化な二回微分を持つかどうかは"curvature conjecture"と呼ばれ,当該分野で最も重要な問題の一つである.実際にこの予想の成立を仮定して導かれた,高分子の端点の揺らぎなどに関する結果なども多数存在する.本年度の研究の最初の成果は,あるクラスの模型に対しては媒質の不均質性が比較的弱い場合にこの予想が成立することを証明したことである.これは部分的な結果ではあるが,その研究の過程で"curvature conjecture"と他の問題の関連もいくつか発見しており,今後の研究につながると考えている.二つ目の結果は,directed polymerの自由エネルギーの零温度極限に関するものであり,ある標準的な設定ではそれがoriented percolationと呼ばれる関連する模型の,路の数の増大度に一致することを示した.この一致は有限体積においては自明であるが,熱力学極限と零温度極限を交換することが必要であり,とくに後者が特異極限であることから技術的には難しい問題であった.このような統計物理模型の零温度極限の問題は物理的な興味だけにとどまらず,ある種の離散最適化問題の近似解を見出す際にも使われることがあり,応用上も興味ある方向の結果である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Directed polymerの問題については当初の研究計画の主要な課題の一つであったが,技術的困難が予想されていた.これが半年足らずで解決したことは予想以上の進展と言える.これはもちろん問題が予想に反して単純であったということではなく,媒質を適切なスケールで周期化した模型と比較するなどの古典的な手法を,測度の集中に関する最新の研究成果を用いた精密な定量評価と組み合わせるという,新規かつ高度な方法によって解決している.また"curvature conjecture"に関する問題は,研究計画においては将来取り組むべき長期的な課題という位置付けで記載されていたもので,部分的とは言え成果が出たことは予期せぬ進展であったと言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は研究計画に記載されていた残りの課題である,directed polymerの局所極限定理,媒質がheavy tailを持つdirected polymer模型の自由エネルギーのスケールの同定,Mott walkと呼ばれるランダム媒質中のランダムウォークの極限定理の研究を行う.このうち,2020年度はとくにMott walkに重点的に取り組む予定である.研究代表者は所属が変更になったが,外国人特別研究員は京都大学数理解析研究所に残って,この問題について詳しいDavid Croydon氏と共同研究を行うことで,本課題の研究を進める.Croydon氏はHambly, 熊谷両氏と共同で,グラフを電気回路と見たときの有効抵抗の解析から対応する確率過程の極限定理を導く一般論を最近確立している.Mott walkの極限定理は,簡単な部分についてはこの理論の適用範囲にあると考えている.一方でその範疇を出る場合があることも判明しており,この場合はランダム媒質中のランダムウォークの研究で最近発展した,いわゆる“再生時刻”を用いるより深い解析が必要であると考えている.
|