研究実績の概要 |
本研究では、奈良県唯一の医学部と、992床の大学病院を有する奈良県立医科大学(以下、奈良医大)の地方独立行政法人化が、周辺地域の地域医療にもたらした影響について考察を加えた。 奈良医大は、橿原市に位置する公立大学で、平成19年度に法人化され、既に10年以上が経過した。法人化に伴い、大学自らの力で運営経費を稼ぐことを求められ、奈良医大の医業収益は、法人化初年度(平成19年度)に231億円であったものが、平成30年度には421億円という驚異的な伸び(+190億円)を示した。 一方で、この間の県内人口は7万人が減少(平成19年度141万人→平成30年度134万人 : 10月1日推計人口)しており、奈良医大の増収は、新たに潜在的な医療需要を掘り起こしただけの結果とは考えにくい。 このことを解明するため、奈良医大の法人化が、周辺の公的病院の経営に何らかの影響を与えているのではないかとの仮説を立て、地方公営企業年鑑(総務省)、各病院の公開資料を基にして分析を加えた。 その結果、奈良医大と周辺公立6病院(宇陀市立、国保中央、大和高田市立、南和広域医療企業団の3病院)の状況を比較すると、奈良医大の法人化以降、一日平均外来患者数は、奈良医大が487人の増(平成19年度1,862人→平成30年度2,349人)に対して、周辺公立6病院の計は558人の減(平成19年度2,793人→平成30年度2,235人)となっている。同様に、外来収益でも、奈良医大が95億円の増(平成19年度81億円→平成30年度176億円)に対して、周辺公立6病院の計は8億円の減(平成19年度70億円→平成30年度62億円)となっており、地理的状況を考えると周辺公立6病院の外来患者が奈良医大へシフトしているように見える。 また、この傾向について、地域特性を除いた条件で検証を行うため、政策的に形成された学術研究都市と立地する医学部(筑波研究学園都市 : 筑波大学、北九州学術研究都市 : 産業医科大学)との比較を行った結果、両大学の医業収益は、この10年間で急激な伸びを示すとともに、周辺公立病院の一日平均外来患者数と外来収益についても、程度の差はあるが、奈良医大周辺と同様の変化があることが分かった。
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