先行研究の成果から、図書館に利用目的に適した個別音響空間を導入することにより利用目的作業を効率的に促進し、教育・研究効果を向上させることが期待できた。同時に図書館というオープンな空間でリラックス効果をもたらす個別音響空間を提供することで、心のケアつまり心理支援を行う場所としての役割を果たすことも可能となり、学生生活を支援する「場」にも図書館を作り変えることができるのではないかとの示唆を得た。そこで本研究は、個別音響空間が図書館の利用目的にもたらす効果を明らかにすることを目的とした。 本年度の研究の手始めとして、まずは読書の利用用途における個別音響空間の効果の検証を、試聴実験を通して行った。個別音響空間として、オープンな空間における個別音響空間はパラメトリックスピーカーを用いて提示音響空間を限定することで実現した。また、比較対象として、クローズな個別音響空間は同じ場所でイヤホンを用いた環境を用いることで実現した。その結果、読書好きな被験者は、クローズな個別音響空間の方が読書の熱中度が強くなる傾向を示した。しかし、読書嫌いな被験者はクローズな空間よりオープンな空間を好む傾向も示されていた。今後、単なる環境だけでなく、被験者の嗜好についても考慮した検証が必要であると考えられる。 オープンな空間における個別音響空間の効果を明らかにすることは教育機関の図書館にとどまらず公共図書館や公共施設における空間利用に新たな可能性を示す点でも大きな意義を持つ。本年度の成果からはオープンな個別音響空間の効果を十分検証できたわけではないが、被験者の嗜好を考慮した検証実験を行っていくことでその効果を明確にすることができると考えている。
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