聴覚に障害をもつ生徒のための歯科技工士養成学校である本校では、科学研究費(奨励研究 : 16H00281、17H00274)の助成を受け、被験者(本校在校生)の協力のもと、歯型彫刻の視覚的なフィードバック資料(以下、資料)による指導の有効性について調査した。具体的には、被験者が彫刻した彫刻物と見本模型との形状誤差について、紙媒体の資料(投影図(正面図・平面図・左側面図・右側面図・背面図)に形状誤差を図示したもの)を提示したところ短時間で彫刻物の完成度が向上し、且つ本指導法は理解しやすいとの知見を得た。一方で、三次元的構造物の形状を二次元で伝えることによる情報不足が課題であった。そこで本研究では、資料をタブレット端末上に示した三次元像による指導の有効性について調査した。具体的には、被験者が彫刻した彫刻物と見本模型を歯科用CAD/CAM機器にてスキャンし、得られた形状のSTLデータを重ね合わせ形状誤差を明確にした。これをアプリケーションソフトの機能にて自由に視点や拡大縮小が調整できる資料とした。被験者にはタブレット端末の資料を参考にしながら彫刻課題に取り組んでもらったところ、事後アンケートでは全ての被験者が「三次元データは紙よりも見やすく使いやすい」「今後の彫刻でも活用したい」と回答し、被験者の91%が「口頭での指導よりもわかりやすい」「三次元データを使った彫刻練習をもっとやりたい」と回答した。また、従来の彫刻と比較して「思ったより分かりやすくて驚いた」「授業でこれを使えば良いと思う」「自分の彫刻の癖がわかり、新しい発見ができた」「削り足りない部分をタブレット画面上で回転しながら彫刻できるので見やすい」等の感想を得た。彫刻物の完成度は資料の介入後に短時間で向上した。以上から、自由に視点を調整できるタブレット端末を利用した資料提示は歯型彫刻の指導に有効であり、被験者にとって理解しやすいものであったことが示唆された。
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