研究課題
二枚貝類は、日輪や年輪を形成しながら付加成長するため、正確なカレンダー日付を貝殻断面に入れることができ、日精度以上の高い時間精度で生息場の環境情報を読み取ることが可能となる。つまり、二枚貝殻は過去の気象を日単位で記録している唯一の記録計ともいえる。そこで本研究では、北海道南西部の考古遺跡から出土した化石二枚貝殻を用いて、成長縞解析と生物地球化学分析を応用することにより、気候・環境変動を日精度で明らかにすることを目的として研究をおこなった。これまでに北海道伊達市の考古遺跡から得られた化石アサリ貝殻を用いて、貝塚が形成された15世紀末から1640年における古環境の推定を試みた。貝殻は最大成長軸に沿って切断し、断面にみられる微細成長線解析および貝殻断面よりマイクロドリルで貝殻粉末試料を連続的に採取し、質量分析計を使用して酸素同位体比分析を行った。解析の結果、貝殻試料の酸素同位体比は0.2‰から-3.1‰の間で周期的に変動し、成長障害輪の部位で重い値を示していた。二枚貝貝殻の酸素同位体比は、貝殻形成時の海水温と海水の酸素同位体比の変動を反映することから、成長障害輪は冬の低海水温期に形成され、年輪(冬輪)として利用できることがわかった。また、微細成長縞の年間付加様式の解析から、殻の成長に適している夏季に一時的な成長縞幅の低下が認められた。先行研究により、同遺跡より産出した化石アサリ試料の分析結果から、降水による淡水の流入のイベントがあった可能性が指摘されている。よって、小氷期における降水量変動を復元するために、年間を通じて現在の有珠湾の海水試料の採水を行った。今後、これらの酸素同位体比値を分析し、現生および化石貝殻の分析結果を合わせて解析することにより、小氷期の気候・気象変動と当時のアイヌの人々の暮らしとの関わりについて新しい知見が得られると期待される。
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