研究実績の概要 |
天竜川では, 濁水が度々発生し主要水産資源であるアユの産卵に影響を及ぼすことが知られている. 一方, 砂州下端の湧水たまり瀬は非常に透明度が高く, アユ産卵床にとって好適な環境となり得る. 本研究では, 天竜川下流域の湧水たまり瀬に着目して, 1)河床変動履歴に基づく産卵床位置の探索と2)環境DNAを用いた産卵床検出法の有効性の検討を行うことを目的とした. 調査区間は, 既往の調査結果に基づき天竜川下流域の16kpから河口付近までに設定した. 調査対象となる湧水たまり瀬は, 平水時は砂州尻ワンドになっているが, 出水時には砂州上流側が浸水し副流路となる地点であり, さらに出水による土砂の侵食堆積量が多い箇所を選定した. 2019年度は6月から10月にかけて2000m3/s規模の出水が複数回発生したため5月(出水前)と11月上旬(出水後)の衛星画像を比較することで, 出水による土砂の侵食堆積量を算出し, 調査地点の選定に活用した. 2019年11月14~16日にアユ産卵床調査を実施し, 16kp, 14.5kp及び12kpの湧水たまり瀬でアユ産卵床を確認することができた. それぞれの地点では縦断的な産卵床調査を実施し, 瀬頭で卵数が多く, 瀬尻で減少する傾向が認められた. 各地点におけるアユ由来環境DNA濃度は地点間のばらつきが大きいものの, 概ね卵数と正の相関関係が確認された. 現地調査並びに環境DNA分析の結果から, アユ産卵床探索に環境DNA分析が利用可能であることが示唆された. しかし, 検出されたアユ由来環境DNAの起源物質には複数の候補(表皮細胞, 体液, 粘液, 精液, 糞等)が想定されるため, 実際に検出された物質を同定することができれば, より正確に卵数と環境DNA濃度との関係が評価できる可能性がある. 今後は, アユ由来環境DNA自体の質量分析を行うことで起源物質の同定を行う予定である.
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