研究実績の概要 |
【背景・目的・方法】 森林に生息する真正粘菌(Physarum polycephalum)の変形体は, アクトミオシン系に制御された活発な原形質流動を示す。変形体は生育に不利な環境下で原形質流動を停止し, 耐性型細胞のスクレロチウム(Sc)へと分化する。生態系の一端を担う真正粘菌の変形体が飢餓ストレスに応答して運動を停止し冬眠状態に遷移するメカニズムを明らかにすることは, 細胞運動の制御・ストレス環境耐性型細胞の構築解明を通してストレスの受容・認識応答ならびにそのシグナル伝達機構の解明に非常に重要な知見を得る事ができる。 私達はこれまで, 原形質流動停止に関与する新規のリン酸化ミオシン脱リン酸化酵素を報告した。しかしこれは, 変形体からSc形成時の飢餓ストレス応答に関与する多くのシステムのうちの一つに過ぎない。 そこで本研究では変形体からSc形成過程に関わる他の分子を質量分析および飢餓応答に関わるオートファジー関連タンパク質を候補としてウェスタンブロッティング法により探索し, 飢餓ストレス応答のメカニズムをさらに解明していくことを目的とした。 【結果】 変形体からSc形成過程で得られた試料から発現量が変化する21分子を質量分析にて解析したところ, 20分子が同定された。そこには真正粘菌に特異的なprofilin-P, calmodulin, Chaperon protein, pDG1, spherulin-3A, physarolisin, plasmin C, LAV1-2が含まれていた。さらにオートファジー関連分子5種類(Atg5, Atg7, Beclin, p62, LC3)のうち, p62とLC3の発現量が変化した。 【考察・今後の課題】 質量分析で解析された分子のうち, profilin-Pおよびcalmodulinはアクトミオシン系に存在し, Chaperon proteinはタンパク質のフォールディングに関与する。その他のpDG1, spherulin-3A, physarolisin, plasmin C, LAV1-2は機能がまだわかっていないが, 変形体からSc形成に関与することが本研究から示唆された。さらにオートファジー関連分子であるp62とLC3が変形体からSc形成過程において関与する可能性も得られた。 これらの分子の関連性をさらに調べていけば各分子の役割が明らかになりメカニズムが解明され, 飢餓応答に関与する細胞内での分子リモデリングが明らかになる。
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