「記憶・学習」など、脳の高次機能の理解には個々の神経活動の動作とともに神経回路としての動作様式の解明が必須である。神経回路活動を計測する手段として膜電位感受性色素(VSD)を用いた光計測法がある。VSDによる光計測は回路全体の神経活動を可視化できるという優れた側面を持つ反面、毒性が全くないというわけではない。蛍光応答のもつ本質的な光毒性、励起光による組織傷害、さらには蛍光色素の負荷そのものによる毒性というマイナス面もある。一方、従来型の無染色内因性シグナル計測は代謝変化を蛍光変換する形で計測を行うため、毒性はないが時間分解能が低く、神経回路活動の計測には適さない。本研究では、無染色非侵襲で神経回路活動を高時間空間分解能で可視化し計測する方法、細胞膜応答を高速内因性シグナル(Fast Intrinsic Optical Signal(FIOS))で捉える新規の膜電位光計測法の確立を目的とした。 本研究は、4週~8週齢近郊系マウスから350μm厚の脳スライス標本を作製して実施した。当研究所で確立したVSD計測システムを適用し、光学フィルタの交換等により、無染色脳スライスの応答を散乱光や複屈折光で計測(FIOS計測)し、波長特性、薬理的性質などをVSDデータと比較した。 今年度の成果の1つは、当研究所の既存VSD光計測システムにフィルタ交換やスライス保持具に変更を加える等の工夫で、1つのシステムでVSD計測とFIOS計測を可能としたことである。さらに本計測システムを用いて、偏光あり、偏光なしの透過光下での単発刺激、高頻度刺激の計測を行い、薬理実験も行った。VSDと比較すると、FIOSはシグナルが小さくノイズの多いデータではあるが、各実験の結果はVSDの結果と近似しており、今後さらなる継続研究を行うことにより、より効果的なシグナルを得る条件の検討を行いたい。また、現在は手作業でVSD用とFIOS用計測システムの変更を行なっているが、今後は簡便にシステムの切り替え、偏光の調節が可能となるシステムに改良したい。
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