「研究目的」 小児科領域において悪性固形腫瘍の治療薬の1つとして用いられるIfosfamideは、その副作用として脳症を発症することが知られている。Ifosfamideは複数のチトクロムP450ファミリーがその代謝に関与しているが、これらの酵素には多くの一塩基多型(SNP)があることが報告されている。そこで本研究ではIfosfamide脳症発症と薬剤代謝酵素のSNPとの関連性について調査することを目的とした。 「研究方法」 ①研究対象 : Ifosfamide使用歴ある患者17名(脳症発症群7名、脳症非発症群10名)とし、SNP解析に加え、患者背景(年齢、性別、疾患、投与量、発症前後の検査データなど)について調査した。 ②SNP検出の流れ : チトクロムP450 2B6(CYP2B6)、CYP2C9、CYP2C19、CYP3A4、CYP3A5の5種類の酵素について、計8種類のSNPを解析対象とした。データベースよりPCRプライマーを設計し、ダイレクトシーケンス法で塩基配列を解析した。 「研究成果」 いずれのSNPにおいても、Ifosfamide脳症発症群と非発症群とで有意な差は認められなかった。しかし、脳症発症群の患者において、主に肝機能障害、腎機能障害に関連する臨床検査所見が有意に変化していることが分かった(上昇項目 : Cre、AST、ALT、γ-GT、LD、CRP、低下項目 : Alb、K)。そこでさらに詳細な患者情報について調査し、脳症発症に関連すると考えられる患者背景について多変量解析を実施したところ、低年齢児、Ifosfamideとシスプラチンの同時投与が脳症発症のリスク因子となりうる結果となった。 「まとめ」 今回の研究ではIfosfamide脳症発症と患者の遺伝学的背景との間に関連性を見出すことはできなかったが、治療経過中の臨床検査所見の推移がIfosfamide脳症の早期発見に役立つ可能性があることが分かった。
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