海産無脊椎動物である原索動物ホヤは脊椎動物の姉妹群として知られる。その中でもカタユウレイボヤは海産無脊椎動物の中では最も有用なモデル動物の一つであり、哺乳類生殖細胞の研究にも有用である。しかし、本種の生殖細胞マーカー系統は作製できていない。そこで、本研究はカタユウレイボヤ生殖細胞に蛍光タンパク質GFPを発現させるマーカー系統の作製を目指した。 まず生殖細胞特異的遺伝子TDRD7を標的とする人工ヌクレアーゼTALENを作製した。このヌクレアーゼの変異導入効率は97%だった。さらに、TDRD7の上流および下流1 k baseをホモロジーアーム(HA)としてgfpに融合させたDNA断片を作製した。この断片をTDRD7 TALEN mRNAと同時にホヤ卵中に挿入して媒精した。すると、尾芽胚期からオタマジャクシ型幼生期に一度全体にGFP発現が現れ、変態期に消えた。その後、変態後5日の幼生に再び局所的なGFP発現が認められた。免疫染色によって、このGFPがVasa陽性の始原生殖細胞特異的に発現していることが分かった。この始原生殖細胞におけるGFP発現は、変態後5日から21日の間に見られ、その後失われた。HAにはTDRD7プロモーター領域が含まれる。従って、このGFP発現はDNA断片中のプロモーター領域による可能性がある。そこでDNA断片がホヤゲノムのTDRD7領域に挿入されているかどうかを調べるため、HAの外側ゲノム領域とgfpの配列をプライマーとしてゲノムPCRを行ったところ、正しい長さと配列のPCR産物が得られた。従って、この方法でゲノムの標的領域にgfpを挿入することができていると考えられる。しかしノックインの効率は不明であり、実際は生殖細胞で挿入を起こすほど効率が高くない可能性がある。従って目的の系統作製には例数を増やしたり、挿入効率をあげるためのさらなる工夫が必要である。
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