【研究目的】 梅毒血清学的検査は「非トレポネーマ脂質抗体(RPR)検査」と「梅毒トレポネーマ(TP)抗体」があり、梅毒の診断、治療の要否、活動性の有無、届け出対象の有無、治療効果判定に用いられている。日常検査として国内で流通している診断試薬は多数市販されており、特にTP抗体は診断薬メーカーにより固相抗原(培養抗原とリコビナント抗原)や判定基準(カットオフ値や定性・定量)も異なるため、検査方法間または診断薬メーカー間で判定不一致が生じる例が多数報告されている。しかし、いずれも2社~数社の比較であり、梅毒と診断された患者を対象にした成績ばかりではない。そのため、臨床診断を基準として各診断薬の反応性の違いを明らかにすることを目的とした。 【研究方法】 臨床背景から活動性梅毒、過去に梅毒治療歴あり、他の疾患治療と一緒に治療された、未治療潜在性梅毒、TP抗体偽陽性、RPR検査偽陽性の6群に分けた。RPR検査はRPRカードテスト、自動化定量法(A社、B社、C社、D社)の5種類を実施した。TP抗体検査は培養抗原を用いたFTA-ABS-IgG法、TPHA法、TPPA法、TPLA定量法(E社)、イムノクロマト法(F社)および、リコビナント抗原を用いたTPLA定量法(G社、H社)、TPLA定性法(I社)、CLIA・CLEIA定性法(J社、K社、L社)、イムノクロマト法(M社)の12種類を実施した。 【研究成果】 治療を要する活動性梅毒患者ではTP抗体の不一致はなく全て高値を示した。当院は紹介患者が来院するため感染してから時間がたっていることも理由として考えられた。RPRの生物学的偽陽性は全ての方法で確認されカード法倍率と自動化定量値が一致しない場合があり、併用測定が望ましいと考えられた。今回のTP抗体不一致例は、FTA-ABS-IgGが陰性または陽性判定付近の低い値であり、臨床的に問題視されていなかった。TP抗体定性法の抗体価(COI. S/CO)は定量値を必ずしも反映していないため、抗体価を用いた評価は困難と考えられた。
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