【研究目的】 日常検査において頻回に遭遇する乳び検体は、生化学/血液/凝固検査の測定誤差の原因となり、その処理は臨床検査の重要課題である。通常、乳び検体の処理には超遠心が推奨されるが、機器が高額かつ手技が煩雑であるため、対応が可能な施設は多くない。また市販の混濁血清処理剤はフロンを含有するため廃止された。したがって、乳び検体処理に関する代替法の開発は急務である。ところで乳びが測定誤差を生じる原因として、カイロミクロンと超低比重リポ蛋白による測定装置の透過光散乱が知られる。そこで申請者は、中性脂肪を分解する酵素リポ蛋白リパーゼ(LPL)に着目した。本研究の目的は、低コストかつ再現性のよい、LPLによる乳び処理法を構築することである。 【研究方法】 イントラリポス輸液を用いて人工的な乳び血清試料を作製し、①乳びにより影響を受ける項目を網羅的に探索して、②LPLによる乳び除去効果を調べ、③乳びにより測定誤差を生じる項目についてLPLによる乳び処理法が有効であるか検討した。 【研究成果】 ①人工乳び血清試料を検討した結果、臨床化学項目24項目のうち12項目が測定誤差を生じることを見いだした。②高度人工乳び血清試料に対してLPLを終濃度0.1-1.0 mg/mL添加した結果、LPLは終濃度0.1 mg/mLから清澄作用があり、低用量で効果的に乳びを除去できることが明らかになった。③②で行った実験と同一の試料にLPL(終濃度0.1-1.0 mg/mL)を添加したところ、ALTおよびLDL-Cは偽低値となったが、そのほかの項目については、LPL添加による影響は少なく、すべての濃度で乳びによる測定誤差を小さくできた。以上の結果から、LPLによる乳び除去法は様々な臨床化学項目に適用でき、従来の超遠心法よりも安価かつ簡便に処理できる可能性が示唆された。
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