【研究目的】 大腿骨近位部骨折は要介護状態を引き起こす主要因であり、健康寿命や生命予後の短縮につながる。大腿骨近位部骨折の治療は可能な限り手術を施行し早期離床を進めるが、術後の廃用症候群や日常生活活動(ADL)低下、リハビリテーションの遅延、介護労働力の減少などが問題となっており、患者を早期に自立させる画期的なリハビリテーションの手法の開発が望まれる。本研究は大腿骨近位部骨折術後患者にHonda歩行アシスト(本田技研工業株式会社製)を用いた歩行練習(HWAT)を行い、従来法と比較することで、その安全性と有効性を明らかにすることを目的とした。また、その他の疾患に関しても、HWATの実施可能性を探索的に調査した。 【研究方法】 当院に入院した大腿骨近位部骨折を受傷した1症例、下肢切断を施行された2症例、変形性股関節症にて人工股関節手術を施行した1症例を対象とした。大腿骨近位部骨折では、通常理学療法のみを実施している対照群と治療効果を比較した。HWATは、1回最大20分、週3~5回、最大4週間、通常理学療法の歩行練習に置き換える形で実施した。評価項目は①歩行能力(歩行速度、歩幅、歩行率)、②歩行の耐久性(6分間歩行テスト)、③下肢筋力、④ADLの自立度(FIM)、⑥有害事象の有無とし、介入期間の前後および退院時の状況を評価した。 【研究成果】 大腿骨近位部骨折、下肢切断、人工股関節手術の症例共HWATを完遂し、有害事象を認めなかった。通常理学療群と比較した症例群では、歩行能力の改善を認め、患側の膝筋力により高い改善効果を認め、対照群とほぼ同等の歩行能力、耐久性、ADLの改善効果を示した。このことから、HWATは大腿骨近位部骨術後患者をはじめ、下肢切断、人工膝関節手術、人工股関節手術の症例においても安全に使用ができ、患側の下肢筋力改善を伴うより良い歩行練習が実施できる可能性が示唆された。
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