研究実績の概要 |
【研究目的】加齢に伴う筋肉量や筋力の低下を示す状態をサルコペニアと呼び, 発症には複数の原因が複雑に相互作用し引き起こされると考えられているが, 主要な要因の一つに炎症が挙げられる. 関節リウマチ(rheumatoid arthritis : RA)は関節滑膜を病変の主座とする全身性の慢性炎症性疾患であるためサルコペニアのハイリスク患者であると考えられる. RA患者において関節滑膜の炎症は関節破壊を進行させるが, TNF阻害薬などの生物学的製剤の登場により, 関節破壊を防ぐことが可能となってきた. 本研究の目的は, RA患者における疾患活動性とサルコペニア罹患率の関連性や生物学的製剤との関連性について検討を行うことである. 【研究方法】当院生理検査室に滑膜炎評価の目的として関節超音波検査の依頼があり, 直筆の署名による同意が得られたRA患者31名(平均年齢60.6±14.0歳)をRA群とし, 対象群としてRAや膠原病, 悪性腫瘍などを患っていない65歳以上の患者27例(コントロール群 : 平均年齢76.7±6.7歳)をコントロール群とした. サルコペニアの診断については, RA患者では関節の痛みや変形により歩行速度が正確に判定出来ない可能性があるため, 歩行速度を含まない日本肝臓学会が提唱するサルコペニア判定基準に従い分類した. 【研究成果】年齢はRA群に比しコントロール群において有意に高値であったが, BMIや生体インピーダンス法による骨格筋量について両群間に有意差は認められなかった. サルコペニア陽性率は, コントロール群で26%(7/27), RA群52%(16/31)であり, RA群で有意に高率であった. また, 疾患活動性によりRA群を2群に分けた場合のサルコペニア陽性率は, 寛解群で31%(4/13), 疾患活動群で67%(12/18)であり, 後者で有意に高率であった. 生物学的製剤の使用率については, 寛解群で39%(5/13), 疾患活動群で28%(5/18)であり, 両群間に有意な差は認められなかった. 本研究では, RA患者ではサルコペニアの罹患率が高かった. また, 今回の検討で使用薬剤とサルコペニアの関連性については明らかにすることが出来なかったが, 疾患活動性のtight-controlは関節破壊の防止だけでなく, サルコペニア防止に寄与できる可能性があると考える.
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