本研究は、最適化問題を解く「焼きなまし法」の手法にアナログ回路を応用する研究である。焼きなまし法が模擬している、金属材料を徐々に冷やすと系のエネルギーが低い状態へ自然に遷移する、という性質はアナログ回路にも備わっており、それをうまく利用すれば焼きなまし法を効率的に実行できると考えた。本研究課題では、まず焼きなまし法を使うイジングモデルに対してアナログ回路を適用することを目的として研究を行った。 まず、アナログ回路によりイジングモデルを表現する方法を考案した。この回路は、イジングモデルのスピンをアナログコンパレータの出力電圧で表現し、スピン間の相互作用の強さを電気抵抗の値で表現している。この回路が自然にエネルギーの低い状態へ遷移することをシミュレーションと実機による実験の両方で確認した。局所解から脱出させるために与える「ゆらぎ」は、回路にノイズを印加することで表現した。ノイズはマイコンで生成した疑似乱数を利用しており、プログラムでゆらぎを制御することが可能である。この回路構成に基づきプリント基板を作成して簡単な4色問題を解かせることに成功した。また、研究を行う過程でイジングモデルのハミルトニアンを拡張するアイデアも得られた。このアイデアについては次年度の研究課題の中で検証を行う予定である。 本研究課題の中でアナログ回路特有の新たな課題も見つかった。多数のフィードバック回路から構成されるため発振を起こす場合があることが分かり、その対策方法が今後の研究課題に加わった。 本研究の成果については、情報処理学会第82回全国大会にて発表している(令和2年3月5日に金沢工業大学で開催予定であったが、新型コロナ禍のため急遽オンラインによる開催となった)。質疑応答の中で電気抵抗を任意にプログラムする関連研究の情報を収集することができ、イジングモデルを動的に変更するアイデアを得ることができた。
|