研究課題/領域番号 |
19H00532
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
幕内 充 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (70334232)
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研究分担者 |
小川 誠二 東北福祉大学, 感性福祉研究所, 教授 (00358813)
小泉 政利 東北大学, 文学研究科, 教授 (10275597)
伊藤 和之 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 自立支援局(研究所併任), 教務課長 (10501091)
木山 幸子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (10612509)
和田 真 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (20407331)
成 烈完 東北福祉大学, 感性福祉研究所, 准教授 (30358816)
中村 仁洋 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 主任研究官 (40359633)
遠藤 喜雄 神田外語大学, 言語科学研究科, 教授 (50203675)
Jeong Hyeonjeong 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (60549054)
那須川 訓也 東北学院大学, 文学部, 教授 (80254811)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 終助詞 / カートグラフィー / 自閉スペクトラム障害 / fMRI / 脳 / 言語 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究は、自閉症スペクトラム症障害の言語障害を言語学理論<カートグラフィー>で捕捉し、当障害へのリハビリテーション手法を創出するための科学的根拠を創出することを目指している。特に命題情報を他者にどのような態度・価値付けで伝えるかを表示する文末助詞の階層に対人コミュニケーション情報が集中的に出現すると予想し、この文末助詞の理論言語学的解明と認知神経科学の手法を用いた実験的検討を行う。研究組織は理論・障害・言語処理・MRIの4班よりなる。 理論班:情動の計算の基礎的なメカニズムについて疑問文を中心に作成し、ASDの言葉との関連を探った。論文は、国際学術誌に投稿し、受理された。 言語処理班:日常会話コーパスのデータ供与者60名のAQ等を測定し、文末助詞「よ」「ね」の使用率との相関を調べたところ、自閉傾向の高い話者ほど「よ」「ね」を使用しないことが明らかになった。 障害班:文末助詞「よ」「ね」の処理に関わる脳メカニズムをfMRIで検討し、両側のTPJが終助詞処理に反応することが示された。聴覚を含む感覚の問題のアンケートについて自由記述を含めて解析を行った結果、 ASD、ADHD、LDのいずれにおいても聴覚の問題が、もっともつらい感覚の問題の半数近くをしめていた。これらの成果についてとりまとめて論文として投稿した。アイコンタクトによる対人行為が欠ける視覚障害者の文末助詞使用について、調査を行うための計画を準備した。また、絵文字は、文末助詞と同じく文の末尾に置かれて表情や気分、態度などを表現するための記号として頻用されていることに注目し、文理解における文末助詞と絵文字の役割とその神経基盤について、行動指標とfMRIを用いて比較検討を進めている MRI班:文末助詞の処理に関わる脳領域を同定するためのタスクfMRI実験を行い、さらにresting-stateネットワークを同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論班:情動の計算の基礎的なメカニズムについて、顔の表情と言葉(日本語、ドイツ語、英語)の関連をマルチモーダルな側面から論文にまとめ、ASDの言葉との関連を探った。論文は国際出版社の論文集に掲載された。 言語処理班:1.文末詞「よ」「ね」の非典型的使用に対する理解の神経基盤を調べるfMRI実験を実施した。その結果、定型発達の日本語母語話者において、感情的共感志向が強い参加者ほど非典型的な文末詞に対する島皮質等の活動を強く惹起した。この結果を、神経科学の国際学会2021年Society for Neuroscienceで発表した。2.文末詞の基本的理解に対するfMRI実験の解析を進めた。文末詞がない文に比べ、文末詞「ね」があると側頭極の活動が強まり、文末詞「よ」があると左楔部の活動が強まる結果が示された。3.定型発達の母語話者が文末詞を発話する際の音響特徴とその個人差を調査している。中間的な結果としては、自閉傾向が高い(AQ高得点の)参加者ほど、「ね」を短く発話する傾向が認められている。この結果を2021年実験言語学の国際学会ExLingで発表した。国語研で開発中の日常会話コーパスのデータ提供話者60名のAQ等を計測し、終助詞産出傾向との相関があることを見出した。 障害班:発達障害当事者を対象としたアンケート調査から、聴覚を含む感覚の問題について実態調査を行い、成果を論文投稿中である。絵文字と文末助詞を含む文章を用いた行動実験を実施し、これまでに得られた結果をまとめて国際学会で発表した。 MRI班:タスクfMRI(文尾助詞「よ」「ね」)のデータ分析を行い、文末助詞の処理に関わる脳領域が同定後、分析結果の整理を行った。タスクfMRIで同定した領域間のcausality を調べたが有意ではなかった。安静時fMRI信号の信頼性を向上するため、ノイズ除去方法の導入・評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
理論班:情動の計算の基礎的なメカニズムについて疑問形を超えて探索し、ASDの言葉との関連を探る。 言語処理班:昨年度取得した実験データの解析を進め、論文化し、国際学術誌に投稿する。また自閉症の言語に関する日本語の書籍を出版する。これにあわせて、国内の自閉スペクトラム症(ASD)の当事者や関係者に向けたシンポジウムを2022年8月に東北大で開催し、これまでの成果を討議し、ASD者の言語的特徴について一般の理解を広める。日常会話コーパスの分析により、終助詞使用と自閉傾向の関係が明らかになったことを受け、自閉症会話コーパスを構築すべく、準備を進める。 障害班:発達障害当事者を対象としたアンケート調査から、聴覚の問題の実態が明らかになり、 会話時の聴取困難が大きな要素を占めていることがわかった。これについて、音源の空間的な定位の問題が関わると考えて、令和4年度には、これを心理物理的に検証する実験を予定している。アイコンタクトをとることが出来ない、成人の中途視覚障害者のコミュニケーションにおける言語的特徴、特に終助詞使用の特徴の抽出を試みる。絵文字についてはfMRI 画像データの収集と解析を継続し、暫定的な解析結果をまとめてR4年度内に国際学会などでの成果発表を目指す。 MRI班:安静時fMRIからcommunication を反映する機能特性を同定するため、中脳と大脳間の機能的connectivity を調べる。また、それからなる機能ネットワークとAQなど心理行動指標との相関をも調べる。さらにASD関連情報を白質MRI信号からの探索し、MR spectroscopyでタスクfMRIにより同定された脳領域におけるAQ特性を調べる。
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