研究課題/領域番号 |
19H00536
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊地 大樹 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (80272508)
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研究分担者 |
七海 雅人 東北学院大学, 文学部, 教授 (00405888)
佐藤 亜聖 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (40321947)
井上 聡 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (20302656)
榎本 渉 国際日本文化研究センター, 研究部, 准教授 (60361630)
高橋 敏子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (80151520)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金石文 / 拓本 / 歴史叙述 / マテリアルカルチャー / 歴史地理情報 / 板碑 / 町石 |
研究実績の概要 |
初年度にあたり、研究代表者および分担者・協力者相互の十分な連携体制を構築しながら、班単位を中心として全体計画に沿ったそれぞれの具体的計画を立案開始した。そのため、年度前半にメンバーが集合し、打ち合わせ会議を行った。 ①東日本班は、宮城県石巻市を中心的なフィールドとして、同市教育委員会と協力し、東日本大震災後の被災状況と復興への道程を見据えながら、確認調査及び拓本調査を開始した。また、被災レスキュー資料を含む市教委保管資料の中から、『石巻の歴史』編纂資料を特定し、内容調査によって次年度以降の調査研究への活用方法を検討した。②西日本班は、高野山を中心的なフィールドとして、金剛峯寺・高野町の協力を得ながら過去の研究を参考にし、あらためて町石塔婆の目録を作成した。これにもとづいて中世の対象から拓本調査を開始した。分担者佐藤亜聖が組織した高野山町石塔婆研究会との相互協力により、多数の研究者や学生の参加協力も得て、石材調査や実測図作成も開始した。③デジタル技術・DB技術開発班は、今後のデジタルデータ蓄積・DB構築公開の基盤整備のため、ストレージを選定設置した。また、とくに撮影の難しい大型拓本のデジタル撮影方法につき研究を進め、デジタルデータを作成した。協力者上椙英之は、光拓本技術の開発確立を進めるとともに、各班のフィールドワークに帯同してデジタルデータを収集した。④歴史地理情報研究班は、荘園絵図研究を進め、成果のデータ入力などを行った。⑤歴史叙述・国際日本学研究班は、アメリカアジア学会でのパネル報告が採用され、研究成果報告のためのペーパーを完成させた(COVID-19感染拡大のため学会は中止)。⑤その他、書籍購入・史料写真デジタル化・拓本装備等によって研究推進の基盤整備を進めるとともに、各メンバーが論文執筆・研究発表等によって成果を発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に打ち合わせ会議を実施したことにより、各班のアイデアや計画を相互に検討しながら共有し、万全の研究体制で出発することができた。東日本班でも、他のプロジェクトグループとの連携により、多くの金石文拓本を収集することができた。また、『石巻の歴史』編纂資料の特定作業は大変有意義であり、2020年度以降の研究の展開が大いに期待できる。いっぽうで、その後の合併による市域拡大などで再調査が必要な対象は広がっているが、2019年度はその全部を視野に収めることはできず、課題として残された。西日本班は、多くの協力により予想以上に順調に金石文拓本を収集することができた。ただし、積雪や立地といったフィールドの自然地理的条件もあって、今後はさらに効率的な計画立案が必要である。また、大分県他九州地方の調査については実施できなかった。研究の進展に合わせた調査対象の絞り込みなど、再検討が必要である。デジタル班は、業者との共同による大型拓本のデジタル化の研究を予定通り進め、約600点の撮影・データ化を年度内に完了したことは、予想以上の大きな進展であった。これにより、仕様や撮影の手順なども確立し、次年度以降はさらに効率的なデジタル化作業の進展が期待できる。歴史地理情報班も、他の研究グループとの連携等により計画通り作業を進めた。国際班は、協力者阿部龍一(ハーバード大)が来日し、計画全体を見通したアメリカでの学会開催や大学院生の参加などにつき、かなり具体的な打ち合わせを進めた。国際学会へのパネル採用やハーバード大での研究会議なども予定され、準備も完了していたが、COVID-19感染拡大のため中止を余儀なくされた。しかし、国際学会はオンライン開催なども模索されており、研究計画の完了までにより発展した形での成果発信が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は最初に本計画の参加者による研究打ち合わせにより、相互に情報や個別の研究計画を共有することにより、年度末におけるCOVID-19感染拡大という大きな障害が発生していたにもかかわらず、効率的・機能的に研究を進展させることができた。さらに、参加者間では関連する研究グループや自治体等との連携に関する意識も非常に高く、この点も研究の進展に効果的であった。これは、本計画全体の後半に集中的に予想される成果発信に際してさらに有効に機能してくる利点であり、十分に推進してゆきたい。フィールド調査については、地域や所蔵者等との連携を一定程度築くことにさらに取り組んでゆく。過去の調査や既存の情報に学びながらこれを批判的に再検討し、あらかじめ調査準備を進めることで、さらに効率的で精密な調査が可能となる。拓本デジタル化については、本年度はさまざまな点で試行錯誤を余儀なくされた。次年度以降はこの経験を生かして主要な問題点を洗い出して検討し、さらに効率的なデジタル化を推進してゆくことができる。過去に蓄積された拓本は、現時点の研究水準では整理上の問題もある。この点を正確に撮影目録に反映させるなどの準備も効果があろう。初年度の研究は参加者各自の個別の発表にとどまっているが、次年度以降は相互にその成果を総合してゆきたい。そのためには、国内外の研究集会等への積極的な参加によって、学界コミュニティ全体の評価と、個人・グループ両面での双方向的な情報交換を推進してゆく。2020年度もCOVID-19の感染拡大は収まっておらず、さまざまな面で研究の遅れが生じることをあらかじめ予想するとともに、柔軟な予算執行が可能となるように情報収集を進め、対応してゆきたい。
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