研究課題/領域番号 |
19H00542
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
宇田津 徹朗 宮崎大学, 農学部, 教授 (00253807)
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研究分担者 |
田中 克典 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (00450213)
福嶋 紀子 松本大学, 総合経営学部, 講師 (10601304)
田崎 博之 愛媛大学, 埋蔵文化財調査室, 教授 (30155064)
石川 隆二 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (90202978)
上條 信彦 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (90534040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プラント・オパール / DNA分析 / 稲作史 / 農業史 |
研究実績の概要 |
本研究は、稲作の存否や水田など生産遺構の探査に利用されてきたイネのプラント・オパール中の遺伝情報を抽出復元し、稲作史研究の進展を制約してきた「時間と空間を網羅したイネ情報の体系的な蓄積」を克服する研究手法の構築を目指している。研究初年度である2019年度は、試料収集を中心に活動し、以下の実績を得た。 【実績1:国内遺跡を対象とした調査と分析試料の収集】柵田第1遺跡、石川条里遺跡、中西遺跡、津島岡大遺跡、砂沢遺跡(弥生時代前期砂沢式期の標識遺跡)、高樋(1)遺跡、杉館遺跡での調査と試料採取を実施した。 【実績2:葉緑体DNAを利用したイネの生態型データ収集の検討】イネの生態型データの解明のために、3つの国内遺跡の水田作土についてプラント・オパールに遺存するDNAの復元に取り組んだ。葉緑体ゲノム領域 (rps16 intron, 偽trnI, 偽acoD)と核ゲノム領域 (DJ6)の復元によって、2タイプのジャポニカが利用されていたことが示唆された。この結果から、イネの遺伝情報、特に生態型を推定する情報をプラント・オパールから収集可能であることが確認された。 【実績3:イネの遺伝情報についての学際的検討に供する資料の調査・収集】考古学分野では、国内の博物館や自治体に保管されている明治期以前のイネ標本の調査とその一部について利用契約を行った。歴史学分野では、文書館や史料館の資料を調査し、尾張・三河を始め各地の近世以前の作付品種を検出した。また、農業試験場・大学が保有する在来品種や滋賀県湖南地域に残る平安時代の稲籾を調査した。農学分野では、多様性評価マーカーの確立に向け、農林水産省コアコレクションと在来赤米の系統を収集した。また、時代を遡った分析に備え、約100年前の三河の在来種(玄米)のDNA解析を実施し、一部のDNAが増幅可能であり、そこからイネの多様性が推定できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、研究代表者と分担者が当該研究着手までに築いてきた研究ネットワークと自治体発掘調査のタイミング等に恵まれ、予想以上に多くの遺跡での調査・資料採取を実施することができた。収集できた水田土壌の時代は、弥生から近世までと多様であり、量だけでなく質的にも優れた試料を落掌できたと言えよう。また、考古学、歴史学、農学の各分野の検討資料の収集も同様に順調にスタートし、進展している。 さらに、これまでの収集試料の分析においては、プラント・オパール内部の情報の保存状況も懸念されるような遺跡立地や堆積環境の影響はほとんどなく、亜種や生態型の情報復元も現在のところ順調である。以上の状況から、今年度は、当初の計画以上に進展していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の進捗と実績に照らし、研究計画そのものの方向性に変更の必要はないと判断され、以下の4つの取組を今後も継続して進めてゆくこととしたい。なお、コロナウイルスの終息への進展状況によっては、各取組への比重を適宜見直し、計画遂行の視点から最適化を図ることとしたい。 【取組1:国内遺跡を対象にイネの遺伝情報の収集と分析を実施し、収集可能な遺伝情報の実態を明らかにする。】弥生・古代~中世・近世、西日本と東日本を基本として、稲作遺跡の土壌の収集と遺伝情報の抽出を実施し、収集可能な遺伝情報の実態を明らかにする。 【取組2:葉緑体DNAを利用したイネの生態型データの網羅的な収集による集約化の検討】抽出したプラント・オパール中の葉緑体DNAの復元により、イネの亜種と生態型の情報を収集する。 【取組3:イネの遺伝情報による赤米に関する学際的(考古学・歴史学・農学)な検討】長野県善光寺平地域において、イネプラント・オパールの遺伝情報と歴史記録に対応する赤米の分析データを連係補完して、当時の赤米の性質や赤米が栽培されてきた時代とその変遷を明らかにする。本調査ならびに検討のプロセスを、イネの遺伝情報を利用した学際的な稲作史研究のロールモデルとして、とりまとめる。 【取組4:分析試料となる遺跡土壌の収集と蓄積ならびに公開利用体制の構築】国内の稲作遺跡から土壌を収集し、その一部はプラント・オパールの抽出と遺伝情報の収集に供試する。残った土壌は、研究代表者の所属する大学博物館に収蔵し、本研究の研究期間だけでなく、中長期的な蓄積と利用を可能とする。
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