研究課題/領域番号 |
19H00553
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
遠藤 環 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (30452288)
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研究分担者 |
本名 純 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (10330010)
金 成垣 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (20451875)
受田 宏之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20466816)
小川 さやか 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (40582656)
張 馨元 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (60635879)
伊藤 亜聖 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (60636885)
後藤 健太 関西大学, 経済学部, 教授 (70454981)
日下 渉 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (80536590)
岡本 正明 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (90372549)
大泉 啓一郎 亜細亜大学, 付置研究所, 教授 (70843689)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インフォーマリティ / メガ都市 / アジア / グローバリゼーション / 社会保障 / デジタル化 / 再開発 |
研究実績の概要 |
第1に、本研究の鍵となる「インフォーマリティ」の概念の検討とすり合わせを行った。その一環として、先行研究のサーベイに加えて、各国の行政による定義や国際機関の議論についても整理した。2010年代に入り、欧米では「インフォーマリティ」研究が再び活性化しており、また各国の政府でも概念が浸透しつつある。ただし、経済学、文化人類学、社会政策論、政治学の各分野が使用している概念は、むしろ多様化・専門分化が進んでいる状況が明らかになった。さらに、アジアとラテンアメリカでは注目されている側面が異なっている。 第2に、参画メンバーで合同予備調査をバンコク、およびマニラで実施した。国家統計局や政府機関への聞き取り、コミュニティや撤去後の移転地、インフォーマル経済従事者や移民労働者へのインタビュー(ギグエコノミーを含む)などを行った。 第3に、参画メンバーの個別の研究では、インフォーマルな交易におけるデジタル技術の活用とシェアリング経済の動向(香港のタンザニア人商人など。研究成果である単著が2つの賞を受賞)やデジタル化によるインフォーマリティの新しい変化について(経済とGVCチーム)、デジタル化や人口動態に伴う労働市場の変化と格差の動向、社会保障の対応(労働と社会保障チーム)、インフォーマル居住地の撤去と貧困層の孤立化の政治への影響や、選挙に見るインフォーマリティの動き(再開発と政治チーム)の研究を進めた。 第4に、国際学会での報告(たとえば、ヨーロッパ東南アジア学会:EuroSEASでは、ドイツ・ケルン大学の研究者と共にパネルセッションを企画・報告)や、チュラーロンコーン大学(タイ)、都市研究センター(インドネシア)の研究者などと研究交流を行った。また、ケルン大学(ドイツ)やフィリピン(ホーリーネーム大学)の招聘を受け、客員研究員となったメンバーが、現地の研究者とのネットワーク強化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、本研究課題の鍵となる「インフォーマリティ」概念の学際的な結びつきの幅広さ、また分野ごとの定義の多様性は予想以上であり、より広範な分野の研究者と意見交換しながら、概念の架橋、実態からの再考、および共同研究が必要であることが明らかになった。特に、概念整理や枠組みづくりは国際機関や欧米の研究機関が先行しているものの、統一概念を作ることが容易ではないため、政策設計のための操作概念を巡る合意形成の議論となっている。本研究成果を国際的に展開するためには、これらの研究機関との国際ネットワークの強化が課題である。他方で、アジアやラテンアメリカの都市での実態調査・研究蓄積やネットワークに関しては、日本の研究機関の優位性も高い。この利点を活かした研究活動を早急に展開する必要性を強く認識した。日本、アジアからの欧米への発信も強化していく必要がある。 第2に、個別研究の進め方については、概念の多様性のすり合わせを理論的枠組みからのみ行うよりも、アジアのメガ都市の実態と理論の間を往復することが必要である。したがって、デジタル化やリスク・危機の時代の到来といった21世紀を象徴する新しい変化がどのようにインフォーマリティを変容させているかを、一つの共通軸として事例研究を進めることとした。 第3に、バンコクとマニラの共同予備調査からは、メガ都市横断的に進む共通の変化(東京などの先進都市を含む)がある一方で、各都市ごとの固有性も大きいことが分かった。例えばデジタル化によるインフォーマリティの変容や方向性は、先行するアナログ・インフォーマリティの組織化の度合いによって異なっており、マニラやジャカルタでの浸透速度に比べてバンコクは緩やかである。2019年度はコロナ禍により他都市の予備調査の予定は延期せざるを得なかった。再開可能となれば、各都市の共通性と固有性に関しての検討もさらに深めたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、インフォーマリティ概念の大枠の整理、各分野の比較、再考すべき論点の検討を進めてきた。経済学と政治学など、異なる分野の間では、注目する変数や、制度・変化の背景の理解、評価(積極的/消極的)などが異なっており、共通概念の形成にはかなり複雑なこれらの交差を整理する必要がある。また、概念上の相違だけでなく、各都市の事例を検討していくと、インフォーマル/イリーガル/フォーマルの境界の引き方や政策への反映状況にも社会ごとの事情が反映していることが明らかになった。これらの点をふまえて、今後は、近年進む新しい変化に特に注目し、共通の観点(デジタル化がもたらすインフォーマリティの変化など)から各事例を検討し、それらを比較することで実態の理解を深めるだけでなく、概念の相対化と架橋の作業も進めていく。 また、時系列に各都市の実態の変化を比較するため、各国の統計調査の実施方法や定義の相違を確認しながら、データベースの整理を進める。その際、国際機関が公表しているデータベースの確認と、各都市の労働統計や世帯調査データを用いての独自の分析の両方を行う。またギグエコノミーやシェアリング経済など、既存の統計調査には十分に捕捉されていない新しい現象に関しては独自のサンプル調査などを行う。 同時に、コロナ禍の状況が落ち着き、各都市での実態調査が再開可能となれば、各メンバーの個別テーマの調査に加えて、各都市での合同予備調査をさらに進める。また、各国の研究機関との連携・ネットワーク構築の強化、量的調査の協力機関の選定などを進める。2021-22年度に実施予定である量的調査については、予備調査での知見を活用しながら、質問票の設計にも着手する。
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備考 |
大泉啓一郎(2020)「人口と財政」(中国)」「人口と財政(韓国)」、上村泰裕編『新・世界の社会福祉7 東アジア』、旬報社。
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