研究課題/領域番号 |
19H00556
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
飯島 慈裕 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (80392934)
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研究分担者 |
高倉 浩樹 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (00305400)
齋藤 仁 関東学院大学, 経済学部, 准教授 (00709628)
檜山 哲哉 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (30283451)
岩花 剛 北海道大学, 北極域研究センター, 海外研究員 (70431327)
桐村 喬 皇學館大学, 文学部, 准教授 (70584077)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 永久凍土 / 気候変化 / 社会影響 / GIS / 衛星リモートセンシング / 環境影響評価 |
研究実績の概要 |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響で、海外調査や海外研究者を招いての研究会が実施できず、国内での衛星データや統計データ解析に軸足を移すなど計画の大幅な変更をした。 自然環境調査として、レナ川中流域のチュラプチャ周辺を対象とし、ALOS2-PALSAR2の2015~2020年の撮影データを入手し、差分干渉SAR解析を適用して、サーモカルストによる地形沈降速度の評価を進めた。その際、ロシア・永久凍土研究所から土地被覆状態のGISデータの提供を受けて、景観ごとの沈降量の推定を試みた。その結果、チュラプチャ居住地周縁部に広がる森林開墾地(かつての農地)や周辺に拡大した集落地域等で2cm/year程度の顕著な沈降速度が確認された。また、草原景観においても農地や空港などの人工的な土地利用の履歴がある地域での沈降傾向が検出された。一方で、沈降が検出されておらず、サーモカルストによるポリゴン地形の形成もみられていない草原も認められることから、凍土融解には自然条件と人間活動との相互作用の重要性が示唆された。この解析をさらに集中的に実施し、論文成果に取りまとめるため、翌年度に研究費を繰り越した。 人文社会調査として、ロシア連邦の国勢調査データならびにサハ共和国の2011~2020年の自治体別の推計人口や住宅面積に関する統計データを用いて、人口動向と凍土荒廃地域との関係を調査した。2000年代以降、ヤクーツクや周辺地域では人口増加とともに市街地の拡大傾向がみられ、凍土荒廃による市民生活の影響との接点が拡大している可能性が確認された。これらの統計データは、今後の学際研究のプラットフォームとしても利用を進めるためWebGISの地図として整備を開始した。また、統合的な研究成果として、「永久凍土と文化」に関する教材資料の英語版を2021年3月末に電子媒体・紙印刷・kindle版の三種で刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は年間を通じて新型コロナ感染拡大による影響を大きく受け、当初予定していた海外調査や海外研究者を招いての検討などが実施できず、大幅な研究計画の変更を余儀なくされた。年度当初から、その状況に速やかに対応すべく、研究分担者間でメールベースでの意見交換やオンラインの研究会をもち、国内で実施可能な研究を再構築して相互連携研究へと対応した。 自然環境調査では、ALOS2-PALSAR2の撮影データの収集を強化し、ロシア・サハ共和国レナ川中流域のインターフェロメトリ解析と多年度でのスタッキングを行うことで、凍土融解にともなう地形沈降現象の検出をさらに進めた。その際、現地研究者による現地の凍土荒廃状況に関する最新のGISデータや、現地調査情報の提供も受け、衛星データ解析の有効性を確認できた。また、凍土荒廃と対応したシベリア広域での北極海流入大河川流域を対象とした水文変化について、データ解析結果に関する論文成果が出た。加えて、サーモカルストの前兆となる地表面植生状態の変化を衛星リモートセンシングから抽出する方法についても検討を開始するなど、新規の研究課題も設定した。人文社会調査では、国勢調査や人口動態、住居に関するデータなどの統計解析とGISデータベース化を進め、基盤情報の整備ができた。これらの結果は国内学会で発表を行った。 北極域そして北東ユーラシア域での凍土環境変化とその人間活動への影響に関する現在までの研究動向を一般に普及させる取り組みとして、英語版の環境教育教材「永久凍土と文化」を刊行できた。一方で、当初予定されていた国際永久凍土学会や国際地理学会、ならびに年度末の国際シンポジウムなどが延期・中止となったことから、成果の発表や論文取りまとめにむけた議論にやや遅れがでた。これらは、次年度への繰越課題として、実施する予定としたため、やや遅れているという評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染拡大の影響で、海外調査の再開目途が立たないため、引き続きオンライン会議などを多用して、研究分担者と海外の現地協力研究機関との密接な連携を図り、研究を推進する。衛星リモートセンシングやGIS、統計情報などを複合したデータ解析を主軸にしつつ、緩和後の速やかな現地調査実施に向けた準備を進めていく。個別の計画は下記の通りである。 自然環境調査では、ロシアとモンゴルで設定された研究地域を中心に、現地観測データとGISデータの収集を現地共同研究機関との連携で進める。また、高分解能数値標高モデルデータ(AW3D)を整備し、ALOS2-PALSAR2によるInSAR解析や多時期の高分解能可視画像データの収集をさらに進め、凍土荒廃の初期段階であるサーモカルスト発達その地形・植生変遷情報の検出のための解析を進める。これらの解析では、機械学習による地表面状態分類の効率化も試みる。さらに、地上検証のためのUAV近接リモートセンシングデータを整備し、同時に解析した結果を論文成果としてまとめる。 人文社会調査では、凍土荒廃と関係した都市や集落域のGISデータの収集・整備を進める。各集中調査地域での集落位置、土地利用区分、道路の地理情報化を進め、凍土荒廃による経年的な変化との対応関係を考察する。各地域のセンサスデータ、地形図や空中写真を現地共同研究機関から提供を受けるほか、自然環境調査で得られる衛星可視・近赤外画像を用いた地表面分類も用いる。 また、これまでの国際共同研究成果に基づき、永久凍土環境変化に関する研究の普及活動を進める。成果導出と論文執筆を推進するほか、一般向けの情報提供作成を進める。さらに他研究費と共同の国際シンポジウムを実施し、本研究の有効性の検討と国際的な連携を進める。
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