研究課題
気候変動研究班では、海外研究協力者から入手したアメリカペリー艦隊1853~1854年のUSS Susquehannaとイギリス海軍1862~1864年のHMS Centaur、オランダ海軍1856年のMedusa号航海日誌気象データと、1914~1921年のフィリピン33地点の風向・風速データをデジタル化した。これまでデジタル化した航海日誌気象データと海上気象データセットICOADSの海上風向風速データを用いて、1850~2014年の南シナ海モンスーン開始時期の長期変動を調査し、1870~1880年代に開始期が遅くなることを見出した。またフィリピン33地点の風向・風速と日降水量データを併せて解析した結果、北西部、北東部、南東部の沿岸部の地点で、それぞれ南西モンスーン、北東モンスーン、貿易風系と降水量の季節進行がよく対応していることがわかった。また近年における気象データも解析し、南シナ海における夏のモンスーン活動の季節内変動や冬のモンスーンがフィリピンにおける極端降雨発現に与える影響を明らかにした。航海史・海洋史・海戦史研究班では、オランダ国立公文書館所蔵の海軍資料アーカイブから、1850・60年代に日本近海に来航した艦艇の航海日誌のデジタル化を、オランダの研究協力者たちと進めた。特に1863-64年の下関戦争に従軍した4隻の軍艦の航海日誌デジタル化を集中的に行った。日本の江戸時代の安政台風等に関連した記録や、インドネシアでのアチェ戦争に従軍した記録など、歴史的に顕著な事件や戦争における気候条件、特異な災害などの気象現象を記録した可能性のある歴史記録の調査が進展した。さらに日本各地の図書館・博物館等に所蔵されている航海日記の調査・研究も進めた。両班で得られた成果は、国際研究プロジェクトACREでのオンライン年会ほかで発表した。
2: おおむね順調に進展している
今年度はアメリカペリー艦隊、イギリス海軍、オランダ海軍の航海日誌記載の気象データを新たにデジタル化し、1850-2014年の南シナ海モンスーンのオンセットの長期変動を解明することができた。また南シナ海のモンスーン気候の影響を直接に受けるフィリピンについて、昨年度のマニラでの長期データに続いて、時期は限られるものの全国33地点での日卓越風向データセットを作成し、モンスーンの開始・終了に伴う風系の季節変化や降雨との関係とその地域特性を解明することができた。また近年の南シナ海における夏のモンスーン活動の季節内変動や冬季モンスーン活動と極端降雨発生との関係等についても解明が進んだ。COVID-19の感染拡大の影響で、昨年度同様、海外出張での現地調査はほとんどできなかったものの、研究分担者の太田が、サバティカルでオランダに長期滞在することができたため、現地研究協力者との共同作業や現地での資料調査が大きく進展し、1860年代の下関戦争に従軍した4隻の軍艦の航海日誌デジタル化等を集中的に行うことができた。なお、COVID-19の感染が年度内に沈静化しなかったため、予定していた香港等での海外調査や一部の国内調査を延期した。
これまでにデジタル化した気象データ等を用いて、南シナ海モンスーンのオンセットの長期変動に関して、オンセットの定義に用いる海上風向風速データの品質検証を行い、1850-2014年の過去160年間に亘るモンスーンオンセットの長期変動を明らかにする。19世紀後半から20世紀前半にかけてのフィリピンの風向・風速、降水量データを併せて、モンスーンと半旬降水量の季節進行との関係、およびその年々変動・経年変化傾向を解析する。近年のフィリピンや周辺地域における降雨や極端降雨の発現と南シナ海モンスーンの活動との関係を明らかにする。オランダ国立文書館が所蔵するオランダ海軍の航海日誌資料について、メタデータの調査と、デジタル化を進め、データベースを構築する。前年度までに構築してきたオランダの歴史研究者・気象研究者の研究協力者との共同研究をさらに進める。COVID-19の感染状況をにらみながら、夏頃にオランダでの現地調査出張を行い、これまで得られた研究成果を現地研究者と共有すると共に、オランダでの大規模なデジタルアーカイブ構築など、今後の更なる研究展開に向けた検討を行う。年度末には、他の研究費とも共同しての国際会議を、これもCOVID-19の感染状況を勘案しつつ、可能であれば東京都立大学において開催し、研究の取りまとめと今後のオランダ等との国際共同研究推進へ向けた検討を行う。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 9件、 招待講演 2件) 図書 (4件)
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