研究課題/領域番号 |
19H00572
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
指宿 信 成城大学, 法学部, 教授 (70211753)
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研究分担者 |
安田 裕子 立命館大学, 総合心理学部, 准教授 (20437180)
青木 孝之 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (40381199)
廣井 亮一 立命館大学, 総合心理学部, 教授 (60324985)
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 准教授 (60586189)
後藤 弘子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (70234995)
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
城下 裕二 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90226332)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 治療的司法 / 再犯防止 / 更生 / 司法臨床 / 被害者臨床 / 依存症 / 少年司法 / 薬物政策 |
研究実績の概要 |
法理論系では従来の(現行の)刑事実体法、刑事手続法、少年法そして刑事政策学の各領域において、治療的司法観に立つと理論的に矛盾や衝突が生じる理論項目を抽出し、臨床系では従来の刑事司法の内外における加害者や被害者に対するアセスメントと回復更生の支援策を概観し、治療を目指した刑事司法を構築した場合にどのような影響を受けるかについての検証を目指した。 法理論系では、青木は、情況証拠による犯人性の認定及び取調べの録音録画記録媒体の実質証拠利用が問題となった事案を分析し、事実認定過程と証拠採否過程を分断する必要について検討した。城下は、過去約10年間にわたる責任論・刑罰論に関する研究成果を著書として纏める作業を進め、触法精神障害者による犯罪への非刑罰的対応の動向等も調査した。丸山は、米国オークランドにあるCollaborative Courtに出席しメンタル・ヘルスコートやドラッグ・コートに参加し法廷関係者の活動を長期にわたって観察調査した。後藤は、「非行少年の立ち直りと少年院の役割―少年院は生き残れるか」というシンポジウム開催などを通して、現役・OBの少年院法務教官や当事者の意見を集約して少年院の役割を再検討するなどした。 臨床系では、廣井は、法と臨床の架橋に伴う原理的課題を抽出する作業に取り組み、伝統的な司法の構造的特徴にどのように臨床的知見を導入して治療的司法に基づく展開を可能にするかを明らかにするよう試みた。安田は、基礎研究から応用的実践にまたがる内容で構成することを目標にして、これまでの実践経験を踏まえた理論化を試み、司法面接とケアに関する著作を刊行した。中村は、脱暴力臨床に向けた実践理論を開拓するため、グループワークにおけるナラティブとケースワークの記録をデータ化し、言語化された脱暴力プロセスの可視化に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目としては順調に進展したと総括できる。その理由として、各領域におけるアセスメントを分担する各研究分担者による調査研究ならびに学術パフォーマンスが非常に良好であることである。 チームの意見交換や研究成果報告の舞台になったのは、次のような研究会や学会であった。2019年6月・治療的司法研究会及び科研費ミーティング(東京・成城大学)、同年7月・法と精神医療国際コングレス及び世界治療法学会議総会(ローマ・ローマ国際大学)、同年9月・日本心理学会(大阪・立命館大学)、同年11月・治療的司法研究会(京都・キャンパスプラザ京都)及び科研費ミーティング(京都)、2020年2月・治療的司法研究会(東京・第一法規)など。 業績報告にあるように、2019年度は研究チームで雑誌掲載論文18本、学会報告は26本(うち海外学会6本)を数え、チームメンバーの研究意欲は極めて旺盛で、パフォーマンスは非常に高いものがある。こうしたことから、本研究プロジェクトに対する研究意欲とその進捗については不安はない。 また、本研究主題に関する社会的関心・期待は非常に大きいものがある。芸能人の薬物逮捕事案などを通して実社会のニーズも大きく、本研究プロジェクトの意義が再確認された年であった。例えば、2020年2月にNHKラジオで一週間にわたって依存症の特集が組まれたが、研究代表者が我が国における治療に基づく法制度や裁判手続の整備や意識改革などを語る機会があった。その他にも、分担者のメディアへの出演やコメントが多かったこともそうした証左であろう。 ただし、コロナウイルス感染拡大に伴い、年度の最後になって2020年2月から3月にかけて海外調査を予定していた数名の分担者が渡航を断念せざるを得なかったことから、予定していた研究活動が年度内に十分達成できたとは言い難い状況が生まれた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度(2年目)は、法理論系では各国の治療的司法の実践において、従来の理論体系と矛盾なく運用されているのかを調査するとともに、各国で法理論の側が治療的司法実務の遂行をどのように理論的体系的にバックアップ役を果たしているのかを調査することを予定している。臨床系では日本にとどまらず海外における公私の専門職がどのように当事者支援を進めているかについて調査することを予定している。 ただし、折からコロナウイルス感染拡大による大学キャンパス閉鎖、研究支援業務の停止、内外の学会の中止延期、調査出張の自粛・禁止などが生じており、本プロジェクトにも年度当初の立ち上がりに大きな支障が既に生まれている。 そこで、上記の各国調査については、渡航による調査に変えて、メールを使った質問やオンライン会議室機能を用いたヒアリングを使うことで当面は対応することを考えている。しかしながら、当初計画とは具体的方法の変更も考えなければならないと思われる。例えば、訪問調査を文献調査に変更したり、研究調査を部分的に次年度(2021年度)への後ろ倒しを余儀なくされると予想される。
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