気候変動と水資源をめぐる国際政治のネクサス－安全保障とSDGsの視角から

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 19H00577
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 藤原 帰一 東京大学, 法学部, 名誉教授 (90173484)
• 研究分担者: 城山 英明 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 教授 (40216205) ; ヘン イークァン 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 教授 (80780618) ; ORSI ROBERTO 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 特任准教授 (70838127) ; 和田 毅 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20534382) ; 錦田 愛子 慶應義塾大学, 法学部(三田), 准教授 (70451979) ; 華井 和代 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 講師 (10768013) ; HUSSAIN NAZIA 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特任助教 (30837860) ; 中溝 和弥 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (90596793) ; 竹中 千春 立教大学, 法学部, 教授 (40126115) ; 清水 展 関西大学, 政策創造学部, 特別任用教授 (70126085) ; 杉山 昌広 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 准教授 (20503428)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 気候変動安全保障 / 気候変動レジリアンス / グローバル・ガバナンス論 / 持続可能な開発目標（SDGs） / 水資源

研究実績の概要

2020年度は気候変動政治のメカニズム解明に注力した。欧州（イギリス）、中東（ヨルダン川沿岸国）、南アジア（インド）、東南アジア（シンガポール、フィリピン）、アフリカ（サヘル地域）、ラテンアメリカ（ボリビア）を研究対象地域として、文献調査、統計データ分析、聞き取り調査、研究チーム内での議論、公開研究会を通じた多分野の専門家との意見交換を行った。新型コロナウイルスの感染拡大により研究チームによる現地調査はかなわなかったものの、フィリピンでは現地NGOの協力を得てマニラの低所得層約800世帯を対象とした水の供給に関する調査を、シンガポールでは政府機関等へのオンラインインタビューを行った。
国レベルでの分析として、インドの事例からは洪水発生後の住民支援が政党の支持獲得競争に利用されるプロセス、アフリカ・サヘル地域の事例からは砂漠化および干ばつに際して農業に傾注した政策が農民と牧畜民の対立を生むプロセスを描き出し、気候変動による自然災害が政治化され、ときに暴力紛争に発展するメカニズムをとらえた。地域レベルでの分析として、フィリピン首都圏に代表される都市部では貧困地域での水の供給を違法組織が担うなど、政府のガバナンスがおよばない領域にインフォーマルセクターによるガバナンスが浸透している状況が明らかになった。一方で、イギリスやシンガポールでは先進技術を用いた未来予測が行われており、気候変動による自然の衝撃が社会不安を招く地域と緩和される地域との格差はますます広がることが予想される。さらに、ヨルダン川沿岸では水供給安定化政策がむしろイスラエルとパレスチナの水アクセスの格差を拡大しており、水資源政策が政治的軋轢を生むリスクもはらんでいる。
各事例の研究成果は3月に開催したシンポジウムで発表するとともに、計7本のワーキングペーにまとめ、日本語と英語の両方でウェブにて公開している。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

資料調査・統計調査は計画通りに実施している。フィリピンでの現地NGOを介した現地調査は当初の予定を上回る規模で、有意義な調査結果が得られた。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大により予定していた海外調査が延期となり、研究手法の変更が必要になった。統計データを中心とする分析、および、オンラインでの聞き取り調査や現地カウンターパートを通じての調査に変更して調査研究を継続している。

今後の研究の推進方策

2021年度には一部の海外渡航が再開されているものの、現地調査の実施には困難が見込まれる。一方で、オンラインでの聞き取り調査や、現地カウンターパートを通じての調査、オンラインでの公開研究会を実施する新たな研究環境が整い、研究手法を変更して研究目的の達成に向かう調査研究を推進できている。当面は海外調査ができないことを前提として、引き続き新たな手法での調査研究を継続する。

研究成果

• [雑誌論文] シリア難民をめぐる危機のグローバルな波及――交錯する時間軸と関係性 (2021)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 松永泰行編『関係性の中の危機と国家』シリーズ グローバル関係学 巻: 2 ページ: -
• [雑誌論文] 'Economies of Violence’, a report for the International Panel on Exiting Violence (2021)
  • 著者名/発表者名: Nazia Hussain
  • 雑誌名: the Fondation Maison Sciences de l’Homme and financed by Carnegie Endowment, 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] Japan’s Response: From Abe to Suga (2021)
  • 著者名/発表者名: Vindu Mai Chotani
  • 雑誌名: Mapping the Belt and Road Initiative: Reach, Implications, Consequences, Editors - Harsh V. Pant and Premesha Saha, Observer Research Foundation Monograph 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] シリア難民をめぐる危機のグローバルな波及――交錯する時間軸と関係性 (2021)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 松永泰行編『「境界」に現れる危機』シリーズ グローバル関係学 巻: 2 ページ: 131-150
• [雑誌論文] 「社会における科学技術のガバナンスの専門家の役割」 (2020)
  • 著者名/発表者名: 城山英明
  • 雑誌名: 電気学会倫理委員会編『鋼鉄と電子の塔：いかにして科学技術を語り、科学技術と歩むか』 巻: - ページ: 178－214
• [雑誌論文] グローバル保健ガバナンスとは何か？ (2020)
  • 著者名/発表者名: 城山英明
  • 雑誌名: 城山英明編『グローバル保健ガバナンス』 巻: - ページ: 4－34
• [雑誌論文] Small States (2020)
  • 著者名/発表者名: Heng Yee-Kuang
  • 雑誌名: The Oxford Research Encyclopedia of International Studies 巻: - ページ: -
  • DOI: 10.1093/acrefore/9780190846626.013.545
• [雑誌論文] The sustainability turn in UAE-Japan relations (2020)
  • 著者名/発表者名: Yee-Kuang Heng
  • 雑誌名: Contemporary Arab Affairs 巻: 13 No. 4 ページ: 89-109
• [雑誌論文] 多文化主義――イスラエル左派運動とシオニズムの桎梏 (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 浜中新吾編『中東政治研究の最前線：イスラエル／パレスチナ』 巻: - ページ: 31-56
• [雑誌論文] 中東政治と難民問題 (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 鈴木董・近藤二郎・赤堀雅幸編 『中東・オリエント文化事典』 巻: - ページ: 62-63
• [雑誌論文] 海外事情・ドイツ――主張し行動する積み重ね (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 『都政新報』「共生協働のヒント：多文化共創出社会へ24」 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] 90倍の入場料ペトラ遺跡 (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 三田評論 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] 遠ざかる和平交渉、独立の夢――取り残された難民たち (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 季刊アラブ 巻: 171 ページ: 12-14
• [雑誌論文] 忘れられたパレスチナの声を届ける――渡辺丘著『パレスチナを生きる』 (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 雑誌名: 世界 巻: 3月号930号 ページ: 260-261
• [雑誌論文] アフリカにおける気 候変動と紛争 (2020)
  • 著者名/発表者名: 華井和代
  • 雑誌名: SRID ジャーナル 巻: 18 ページ: -
• [雑誌論文] The Dynamics of Conflict and Peace in Contemporary South Asia (2020)
  • 著者名/発表者名: Mio Minoru、Nakamizo Kazuya、Fujikura Tatsuro
  • 雑誌名: The Dynamics of Conflict and Peace in Contemporary South Asia: The State, Democracy and Social Movements, 巻: - ページ: 3-19
• [雑誌論文] コロナ禍と惨事便乗型権威主義ーインドの試練 (2020)
  • 著者名/発表者名: 中溝和弥
  • 雑誌名: 国際問題 巻: 697 ページ: 15-26
• [雑誌論文] Dismantling Democracy: The 2019 Indian General Election and the Formation of the 'BJP system (2020)
  • 著者名/発表者名: 中溝和弥
  • 雑誌名: アジア研究 巻: 66-2 ページ: 76-92
  • 査読あり
• [雑誌論文] Dynamic Resilience of Ayta Community: Creative Rehabilitation After Mt. Pinatubo’s Eruption, 1991 (2020)
  • 著者名/発表者名: Hiromu Shimizu
  • 雑誌名: Resilience and Human History: Multidisciplinary Approaches and Challenges for a Sustainable Future 巻: - ページ: 147-156
• [雑誌論文] 気候工学（ジオエンジニアリング）に関わる専門家とそのコミュニティー－日米と欧米の違いの一考察－ (2020)
  • 著者名/発表者名: 杉山昌広
  • 雑誌名: 環境社会学研究 巻: 26号 ページ: 26-43
• [雑誌論文] カッチ・シンド国境問題におけるインド、パキスタンの国際関係―カッチ湿地紛争と国境画定過程の事例分析 (2020)
  • 著者名/発表者名: 永野 和茂
  • 雑誌名: アジア研究 巻: 66 ページ: 1-19
  • DOI: 10.11479/asianstudies.66.3_1
• [雑誌論文] Untapped Potential between India and Japan in the Indo-Pacific Pursuing International Military Education (2020)
  • 著者名/発表者名: Vindu Mai Chotani and Shutaro Sano
  • 雑誌名: Journal of Indo-Pacific Affairs 巻: Volume 3, No. 3 ページ: -
• [雑誌論文] Quality Infrastructure Lending in the Indo-Pacific (2020)
  • 著者名/発表者名: Vindu Mai Chotani and Yoichiro Sato
  • 雑誌名: The Japan Times 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] Japan and Quad 2.0: three key challenges going forward (2020)
  • 著者名/発表者名: Vindu Mai Chotani and Yoichiro Sato
  • 雑誌名: Asian Power Watch 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] Leading from the Kantei: Japan and the Quad (2020)
  • 著者名/発表者名: Vindu Mai Chotani
  • 雑誌名: Tokyo Review 巻: - ページ: -
• [雑誌論文] Re-envisioning the Future of Asian regionalism in the Post-COVID-19 Era (2020)
  • 著者名/発表者名: Vindu Mai Chotani
  • 雑誌名: The Columbia Journal of International Affairs 巻: - ページ: -
• [学会発表] 2050年カーボンニュートラルに向けた社会技術シナリオ (2021)
  • 著者名/発表者名: 城山英明・鈴木朋子
  • 学会等名: 日立東大ラボ・産学協創フォーラム第3回「Society5.0を支えるエネルギーシステムの実現に向けて」（東京）
• [学会発表] トランジションの諸類型 -北九州市のエコタウン事業、富山市コンパクトシティ事業を事例として- (2021)
  • 著者名/発表者名: 城山英明
  • 学会等名: 未来ビジョン研究センター・日立東大ラボ : 持続可能な社会の転換に向けたトランジション研究ワークショップ」（東京）
• [学会発表] The Circumstances and Challenges for the Return Migration of Syrian Migrants-Refugees (2021)
  • 著者名/発表者名: Aiko Nishikida, Yutaka Takaoka, and Shingo Hamanaka
  • 学会等名: European Social Science History conference (ESSHC) Annual Conference 2021
• [学会発表] COVID-19 and Migration crisis: Some Reflections on Urbanization in India (2021)
  • 著者名/発表者名: Kazuya Nakamizo
  • 学会等名: Institute for Future Initiatives, University of Tokyo 'Workshop Series-2：Complex Challenges in an Urban World
• [学会発表] 海洋プラスチック問題のガバナンス (2020)
  • 著者名/発表者名: 城山英明
  • 学会等名: 東京大学サステイナブル未来社会創造プラットフォーム（東京）
  • 招待講演
• [学会発表] 複合リスクガバナンスの課題 (2020)
  • 著者名/発表者名: 城山英明
  • 学会等名: RIETI（独立行政法人・経済産業研究所）・BSWS（グローバル・インテリジェンス・プロジェクト）（東京）
  • 招待講演
• [学会発表] The Impact of COVID-19 and Future of Global Health Governance and Beyond (2020)
  • 著者名/発表者名: Hideaki Shiroyama
  • 学会等名: 12th Annual Conference Five-University Collaboration on East Asia Conflict and Cooperation (Princeton Online)
• [学会発表] Technology Leadership and Asia's Digital Economy and Society (2020)
  • 著者名/発表者名: Yee-Kuang Heng
  • 学会等名: The Risk Quotient, Lloyds Register Foundation Institute for the Public Understanding of Risk, Daejeon, South Korea
• [学会発表] Transformation of Mexican Civil Society: A Historical and Spatial Analysis of Popular Protests, 1955-2018 (2020)
  • 著者名/発表者名: Takeshi Wada
  • 学会等名: Latin American Popular Politics Workshop. Tulane University, L.A
• [学会発表] 国家主権の外側におかれる者の危機――移民／難民およびパレスチナの権利をめぐって (2020)
  • 著者名/発表者名: 錦田愛子
  • 学会等名: 日本国際政治学会2020年度年次大会
• [学会発表] インド民主主義70年の軌跡ー内政と外交ー (2020)
  • 著者名/発表者名: 中溝和弥
  • 学会等名: 富士通フューチャースタディーズ・センター第14回国際情勢研究会
• [学会発表] Politics of Obedience: BJP system and 2020 Bihar state assembly election in India (2020)
  • 著者名/発表者名: Kazuya Nakamizo
  • 学会等名: The 1st Asian Consortium of South Asian Studies (ACSAS)
• [学会発表] コロナ渦のインドを読み解く (2020)
  • 著者名/発表者名: 中溝和弥
  • 学会等名: JICA第3回南アジア地域セミナー
• [学会発表] アヨーディヤ判決をめぐる政治過程 (2020)
  • 著者名/発表者名: 中溝和弥
  • 学会等名: 2020年度人間文化研究機構プロジェクト「南アジア地域研究」MINDAS 第1回「宗教」班／KINDAS研究グループ2共催研究会「アヨーディヤー判決とその後のインドを考える」
• [図書] The Dynamics of Conflict and Peace in Contemporary South Asia: The State, Democracy and Social Movements (2021)
  • 著者名/発表者名: Minoru Mio, Kazuya Nakamizo, Tatsuro Fujikura
  • 総ページ数: 216
  • 出版者: Routledge
  • ISBN: 9780367470579
• [図書] 職場・学校で活かす現場グラフィー (2021)
  • 著者名/発表者名: 清水 展、小國 和子
  • 総ページ数: 272
  • 出版者: 明石書店
  • ISBN: 9784750351445
• [図書] 気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」 (2021)
  • 著者名/発表者名: 杉山 昌広
  • 総ページ数: 240
  • 出版者: ＫＡＤＯＫＡＷＡ
  • ISBN: 9784044006112
• [図書] Violence and Democracy (2020)
  • 著者名/発表者名: NAKAMIZO Kazuya
  • 総ページ数: 428
  • 出版者: 京都大学学術出版会
  • ISBN: 9784814002764
• [図書] 自前の思想 (2020)
  • 著者名/発表者名: 清水 展、飯嶋 秀治
  • 総ページ数: 454
  • 出版者: 京都大学学術出版会
  • ISBN: 9784814003006
• [図書] 鋼鉄と電子の塔 (2020)
  • 著者名/発表者名: 大来 雄二、桝本 晃章、唐木 英明、平川 秀幸、山口 彰、城山 英明、島薗 進、電気学会倫理委員会
  • 総ページ数: 304
  • 出版者: 森北出版
  • ISBN: 978-4-627-97371-8
• [図書] グローバル保健ガバナンス (2020)
  • 著者名/発表者名: 城山 英明
  • 総ページ数: 312
  • 出版者: 東信堂
  • ISBN: 9784798916538
• [備考] SDGs協創研究ユニット「気候変動と水資源をめぐる国際政治のネクサス」
  • URL: https://ifi.u-tokyo.ac.jp/projects/pol/