研究課題/領域番号 |
19H00603
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮島 英昭 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60182028)
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研究分担者 |
蟻川 靖浩 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 准教授 (90308156)
久保 克行 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (20323892)
鈴木 一功 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 教授 (40338653)
大湾 秀雄 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60433702)
牛島 辰男 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80365014)
齋藤 卓爾 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 准教授 (60454469)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 企業統治 / 企業金融 / 組織内権限配分 / 自社株買い / アクティビスト |
研究実績の概要 |
本研究は、1.鈴木をリーダーとする企業統治構造の進化の分析 2.久保をリーダーとする企業統治構造と雇用システム分析 3.蟻川をリーダーとする資本効率とリスクテイク分析の3チームから構成される。 1の企業統治構造の進化の分析では、宮島、鈴木がフランクス(LBS)、べヒト(ブリュッセル自由大学)と、日本におけるアクティビズムの実態を、内部資料に基づくクリニカル・スタディと計量的な分析を組み合わせて分析し、第1次分析を終えた。また、その成果の一部は日経新聞で公表された。宮島はフランクス、メイヤー(オックスフォード大学)とともに、自社株買いの役割に関する分析を進展させた。さらに、宮島・齋藤は、近年の企業統治改革の成果を、独立取締役の導入、機関設計の変更、政策保有株の売却促進を中心に分析し、その成果は『旬刊商事法務』誌に連載された。 2の企業統治構造と雇用システム分析チームは、市場ベースの企業統治の拡大が雇用システムに与えた影響の分析を課題とした。久保がジャクソン(ベルリン自由大学)と、企業統治と格差の拡大に関する分析を進展させる一方、機関投資家の関与や独立取締役の増加が正規・非正規雇用の選択に及ぼした影響に関する分析に着手した。また、宮島、大湾が加藤(コルゲート大学)と、国際的に見た従業員持株会の特徴と役割についての英語論文を作成した。 3の資本効率・リスクテイク分析チームは、企業統治制度の変化が企業行動や業績にいかなる影響を与えたかの分析を課題とした。蟻川が宮島、河西(熊本県立大学)と、企業統治制度の影響を、(i)負債比率、現預金保有・総還元比率 (ii)政策保有株 (iii)R&D投資、実物投資、M&A、事業再組織化の程度(資産の変化率)に焦点を合わせて分析した。宮島、牛島は小川(千葉商科大学)と協力して、内部組織構造(権限配分)と事業再組織化、M&Aの関係の分析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究プロジェクト全体に関連して、データ面では、これまで早稲田大学に蓄積してきた企業統治関連データを最近まで延長・拡充する一方、アクティビストファンドの比重を含む所有構造、取締役構成、内部組織構造、研究開発指標、海外M&Aなどの新たな変数の開発・構築を進めた。また、正規・非正規比率などのデータの収集に努め、そのための企業活動基本調査などの利用申請を行った。また、利用を許された経済産業省の企業統治アンケート調査(2017,18年実施)と財務データなどとの結合を試みた。 課題1に関して、自社株買いの分析は、金庫株の処分についての分析を進め、改定版が80%程度完成した。アクティビズムの分析については、2000年以降のアクティビスト、エンゲージメント代行機関のデータの整理・分析を進め、第1次草稿を完成した。他方、企業統治改革の企業統治の進化に対するインパクトの分析は、ほぼ終了し、そのとりまとめに入った。 課題2に関して、久保はジャクソン教授と共同研究を進展させ、資本と労働の分配、経営者報酬と従業員賃金の格差などの分析に関して基本的骨格を確定した。大湾は、海外機関投資家が経営参加型の雇用慣行をどの程度評価しているか、さらに、従業員持株会とストックオプションの補完関係の分析に取り組み、分析枠組みの構築、基礎データの収集を進めた。 課題3に関して、蟻川は宮島、河西と、企業統治の変化、とりわけ機関投資家の持株比率とR&D投資の関係などについて分析を進めた。また、宮島は齋藤と、企業統治改革が負債比率、現預金保有、総還元率、政策保有株式比率などに与える影響について分析している。さらに、牛島、小川は、本社部門のウェイト(従業員比)で近似される組織の集権性が、内部資本市場の効率性など多角化企業のパフォーマンスに及ぼす影響の分析を進め、基本的なデータ収集と、パイロット的な推計を終了した。
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今後の研究の推進方策 |
課題1に関して、自社株買いの分析は、秋にフランクス教授の来日が予定されており、そこで集中的に分析を進め、英文誌への投稿を目指したい。また、アクティビズムの分析については、同時期にベヒト教授の来日が計画されており、そこでファンド、投資会社へのヒアリングを進め、第1次稿を作成したい。企業統治改革の企業統治の進化に対するインパクトの分析は、商事法務の連載の終了後に、それをベースとして、グループガバナンス、ESG投資、国際比較の論点を追加して、単行本を公刊する。さらに、本年度、宮島・齋藤はヤフェ教授(ヘブリュー大学)と共同して、経済産業省のアンケート調査などを利用して、新たな視角からの取締役改革の実証分析に着手する。 課題2に関して、久保とジャクソン教授との共同研究の一つの注目点は、理論的な背景である。社会学を中心に格差に関してさまざまな理論があるが、今後は、現在得られている結果をそれらの理論と整合的に解釈することを目指す。宮島、大湾は、従業員持株会の保有比率の変化、従業員持ち株会とストックオプションを組み合わせた場合の株式市場の反応の分析に取り組み、第1次草稿の作成を目指す。 課題3に関して、蟻川は、ひきつづき企業統治改革が企業の投資行動や財務戦略に与えた影響について分析を進める。特に、R&Dに関する論文については、2020年度中に草稿を作成したい。牛島と小川は、上記本社部門の分析の最終的な仕上げを行い、国際学会での報告と論文としての刊行に取り組む。 本年度は、宮島編『企業統治と成長戦略』(東洋経済新報社)をベースに、その後の成果を追加した部分を増補して、日本の企業統治の進化に関する包括的な英文書を作成する。現在、出版社と交渉中であり、本年度中に出版社の選定を終えて、2021年度中の出版を目指したい。
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