研究課題/領域番号 |
19H00603
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮島 英昭 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60182028)
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研究分担者 |
鈴木 一功 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 教授 (40338653)
久保 克行 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (20323892)
蟻川 靖浩 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 准教授 (90308156)
大湾 秀雄 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60433702)
牛島 辰男 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80365014)
齋藤 卓爾 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 准教授 (60454469)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 企業統治改革と資本効率 / リスクテイク / エンゲージメント / アライメント / 権限配分 |
研究実績の概要 |
2013年から本格的に始まった企業統治改革は、銀行危機以降徐々に変容していた日本の企業システムに大きなインパクトを与えた。企業統治改革は世界金融危機後の国際的動向でもあったが、日本においてユニークな点は、英米圏では強すぎるガバナンスが近視眼的な経営や過度のリスクテイクをもたらしたという認識から株主主権が再検討されたのに対して、逆に弱すぎるガバナンスが保守的な経営や低い資本効率をもたらしたという認識から株主権の強化が図られたことである。 しかも、この一周遅れの課題に、地球的問題の解決、社会の持続的発展への貢献という現代的な課題が加わった。本研究の課題は、2010年代半ばから続く企業統治改革は、日本の企業統治をどの程度変化させたのか、さらに、資本効率を引き上げ、リスクテイクを促し、ESG投資を促進したのかを解明する点にある。 この点を解明するために、本研究は、(1)企業統治構造の進化、(2)統治構造と雇用システム、(3)資本効率とリスクテイクの3チ-ムを組織し、海外研究者との共同研究を通じて、所有構造の変化、事業法人・内外機関投資家の経営への関与(エンゲージメント)、取締役会や報酬制度が、実物投資、R&D投資、M&A、ESG投資等の企業行動や最終的な企業業績に与える影響の包括的な分析を進めた。 本年度は、分析の基礎となるデータベースの構築、機関投資家からの内部資料の利用の許諾等研究遂行のベースを確保する一方、それらを基礎に、自社株買い、政策保有株の売却の決定要因、中小型株における海外機関投資家の役割、経営者報酬改革の実態、内部資本市場の役割等について成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年の企業統治構造の進化の把握に関しては、起業家型企業の実態、所有構造(パッシブ・アクティブ等運用主体別分布、ブロック所有の実態)、取締役会構成、経営者報酬等について新たなデータベースを構築し、その変化の様式化を試みた。 サブテーマの一つである対話型アクティビストに関しては、事例研究と計量的な分析を組み合わせて実態を分析し、“Outsourcing Active Ownership in Japan”としてWPを公刊した。自社株買いの分析では、フランクス(LBS)、メイヤー(オックスフォード大学)、小川亮(千葉商科大学)と共同して、金庫株処分(売出し)の実態を通常の公募増資と比較する等の新たな視点を加えて分析した。また、この分析の政策的含みを、日本経済新聞「経済教室」等の媒体を通じて公表した。 企業統治構造と雇用システムでは、久保が経営者報酬に関する一連の論文を執筆した。また、久保は取締役会におけるジェンダーダイバーシティの増大が雇用システム・企業パフォーマンスに及ぼした影響の分析をJJIE誌に公刊した。 資本効率とリスクに関しては、蟻川が日本企業の長期リターンの動向について分析成果を公表し、基礎的な事実の様式化を試みた。また、企業統治改革とパフォーマンスでは、 (i)資本構成 (ii)配当政策・政策保有株 (iii)投資・事業再組織化を従属変数として、標準的な決定要因に企業統治要因(独立取締役数、属性、任意の委員会等)を追加したモデルの推計を進めた。リスクを取る経営・長期的な経営では、リスクを取る経営の指標として、R&D投資とクロスボーダーM&Aを取り上げ、事業法人とファンドの関与とその影響の差に関する分析に着手した。 研究代表者は、本年中の研究をベースに分析の政策的含意を「日本型モデル2.0に向けて」と題して証券アナリストジャ-ナル等の媒体で公刊した。
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今後の研究の推進方策 |
自社株買いの分析は、2022年度中に学会報告、WPの作成を経て、英文誌に投稿を目指す。また、そこで提示した英米で支配的なExternal market for controlとは区別される、企業経営者に主導されたInternal market for corporate controlという新たな視点を他の実証分析にも拡張する。 パッシブ投資家のエンゲージメントの実態に関する分析では、運用機関から提供を受けた内部資料に基づき、とくにESG活動への影響に焦点を当てて分析を進める。また、前年度SMBC日興証券との協力のもとに開始した宮島・齋藤による政策保有株売却の決定要因とその効果の分析については、本年中に成果の公刊を図る。さらに、前年度ほぼ分析を終えた海外機関投資家の役割に関する分析はセミナー、学会報告を進め、英文誌に投稿する。 市場ベースの企業統治の拡大が雇用システムに与えた影響の分析については、経営者報酬、持株会の生産性効果に焦点を合わせて分析を進める。内部組織構造に関しては、本社の規模と内部資本市場の機能に関する分析が課題となる。 リスクテイクに関しては、事業法人と投資ファンドの機能の違いに焦点を合わせ、ブロック保有の機能の分析を進め、本年度中にWPを公刊する。 研究代表者は、齋藤と供に、アベノミクス下の企業統治改革の分析、取締役会改革の機能、ブロックホルダー・海外機関投資家の役割の分析をベースに、さらに、グループ・ガバナンス、上場子会社等の論点を追加して、単行本の出版を目指す。また、現在交渉中の日本の企業統治に関する英文論文集の準備を継続し、2022年度中の刊行を目指す。COVIDの終息を前提に、海外共同研究者の来日を計画し、RIETI、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センターの協力を得て、機関投資家の役割についてのシンポジウムを開催する。
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