研究実績の概要 |
連続的に流れてくる音声を聴きとり,意味を理解するためには,音声の細かい時間的な変化と,大まかな変化の両方を捉えて,子音や母音を聴きとることと,文脈を理解することの両方が必要とされています。そして,脳のなかにもこれらに対応する二つのしくみが存在するとされてきました。しかし,この二つのしくみがどのように組み合わされて音声が理解されているのかは,まだよく分かっていません。本研究では,音声の時間的な変化を劣化させた音声を合成し,劣化の度合によって音声の聴き取りがどう変化するのかを調べることで謎の解明に役立てます。 本年度は20, 40, 80 ms の 3 段階の時間分解精度でモザイク化処理を行った音声を 40, 80, 120, 160, 320 ms の区間ごとに時間的順序をランダムに変動させた局部ランダマイズ・モザイク音声の明瞭度と,時間分解精度を40, 80, 120, 160, 320 ms として作成したモザイク音声の明瞭度とを比較する実験を行いました。周波数分解精度は聴覚末梢の時間分解精度に相当する 20 臨界帯域に固定しました。8 名の実験参加者で実験を行ったところ,全条件で 100% となった 40 ms の条件を除いて,常に局部ランダマイズ・モザイク音声の明瞭度がモザイク音声の明瞭度を上回ること,局部ランダマイズ・モザイク音声の時間分解精度は結果にほぼ影響を与えないことがわかりました。このことは,40 ms 程度の短い時間窓から得られる情報と,100-200 ms 程度の長い時間窓から得られる情報の両方を,ヒトはうまく利用できることを示唆します。 さらに,スペクトル全体の形を変えずに,一部の帯域だけ局部時間反転を行った音声を用いた研究,聴覚アイコンに言語背景がおよぼす影響の研究や,精神疾患患者における脳内時間処理と視覚的注意障害に関する研究なども行いました。
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