研究課題/領域番号 |
19H00634
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
乾 敏郎 追手門学院大学, 名誉教授 (30107015)
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研究分担者 |
小川 健二 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (50586021)
笹岡 貴史 広島大学, 脳・こころ・感性科学研究センター, 准教授 (60367456)
朝倉 暢彦 大阪大学, 数理・データ科学教育研究センター, 特任准教授(常勤) (70308584)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 身体イメージ / 視点取得 / 内受容感覚 / 個人差 / 自由エネルギー原理 |
研究実績の概要 |
身体の線画を提示し、挙げている腕の左右判断を行ってもらう課題を実施し、参加者の脳活動をfMRIによって測定した。その結果、正面像の身体が挙げている腕の左右判断を行っているとき、背面像と比較して両側運動前野、両側後部頭頂葉、視覚野、小脳などの感覚運動ネットワーク、背側前部帯状回、左前部島皮質などの顕著性ネットワークなどに活動が見られた。このとき、参加者の身体中心の座標系における左右が異なっているため、刺激あるいは参加者の身体イメージを反転させてそれらを揃えるという過程が脳活動にも反映していると考えられる。つぎに腕の触覚刺激による誘導法と自己運動をともなう誘導法を用いた二種のラバーハンド錯覚(RHI)実験をfMRI内で実施し、右運動前野および両側の頭頂間溝で、触覚と運動に共通した所有感に関与する神経表象の存在が示唆された。また、RHIの主観的強度と内受容感覚(心拍知覚)の正確性との関係を階層ベイズモデリングで分析したところ、否定的な知見が再現され、既存理論の修正の必要性が示唆された。さらに内受容感覚に関与する神経回路網をモデル化し、自由エネルギー原理との関係を詳述した。また、内受容感覚の測定で用いられてきた心拍計測の時系列データおよび刺激系列データから心拍弁別課題の課題成績を予測するベイズモデルを構築した。そして、心拍弁別課題を内受容感覚と外受容感覚(聴覚)との同時性判断としてモデル化し、このモデルを課題成績データに当てはめることで、心拍タイミングの検出精度を推定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラバーバンド錯覚(RHI)に関するfMRI実験および行動実験を実施し、それぞれ論文投稿・準備中である。一方で、挙げている腕の左右判断を行う課題については、コロナ禍により実験の実施に支障を来したことにより,fMRI実験の実施が後ろ倒しとなったため,今年度中にfMRI実験の解析にまでは着手できなかった。また、心拍弁別課題の課題成績を予測するベイズモデルについては、モデルを検証するための実験データが広島大学から学外持ち出し不可であったため,出張が制限されている期間が長かった本年度はデータ解析が進められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたデータを、回転角度ごとの詳細な解析や、内受容感覚の個人差との相関に関する解析、さらにはPsycho-Physiological Interaction (PPI)解析等を行うことによって、身体イメージの生成や変換にかかわる内受容感覚の脳メカニズムを明らかにし、社会的認知に不可欠な視点取得機能における内受容感覚の関わりを明らかにすることを目指す。また、構築した心拍弁別課題のベイズモデルを実データに適用し、心拍に対する感度・確度を個人レベルで明らかにする。さらに、内受容感覚に関する自己評価や関係する脳機能計測データとの統合解析手法を構築する。そして、自由エネルギー原理を基礎にこれらのデータを説明する理論を考察する。 一方、自己身体イメージに関しては、今年度RHIを用いて多感覚統合による身体所有感の形成過程を検討し、それにより神経表象に関する新たな知見が得られた一方で、既存理論の修正の必要性も示唆された。2022年度は、引き続きRHIを用いることで、多感覚知覚に根差した身体所有感の形成過程をより詳細に検討し、その個人差の創発過程の解明と理論化を目指す。そのため、これまであまり焦点があてられてこなかった、RHI誘導の効果がない(あるいは、極めて弱い)「無反応者」にも着目する。行動データの統計モデリングや脳活動データのデコーディング等の技術を駆使して、RHI誘導時の主観的経験や神経表象を検討することで、無反応者・反応者それぞれの特徴やその創発過程について実証する。そして、その知見に基づき、既存理論の修正・拡張を提案する。
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