研究課題/領域番号 |
19H00641
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木村 芳文 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (70169944)
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研究分担者 |
金田 行雄 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特任教授 (10107691)
辻 義之 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (00252255)
坂上 貴之 京都大学, 理学研究科, 教授 (10303603)
藤原 宏志 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00362583)
松本 剛 京都大学, 理学研究科, 助教 (20346076)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 乱流 / 渦運動 / 渦リコネクション / 流体方程式の解の特異性 / オイラー方程式の正則化 |
研究実績の概要 |
流体方程式の適切性/特異性の解明は流体方程式の数値解析の理論的裏付けとして多くの分野にまたがる基礎的な問題である一方,流体の最大の未解決問題である乱流の理解と制御に決定的な役割を果たすことから数学のミレニアム問題の一つにも挙げられている大問題である.本研究課題は 渦運動の視点から流体方程式の特異性とそれに関わる乱流の統計性の問題を戦略的に研究することを目的としている.学術的な「問い」として(1)流体方程式の特異性を正確に捉えるための方法論,(2)乱流中の渦フィラメントの安定化問題,(3)渦リコネクションにおける特異点の正則化問題,(4)渦フィラメントの特異性と乱流の統計性の問題,(5)渦フィラメントの相互作用についてのリモートセンシングを掲げ, 理論・モデル解析と大規模数値解析を融合させることによってこれまでの特異点探索における困難を克服し,これらの「問い」に答えることを目的とし.この解決によって乱流の解明と制御への筋道をつけるとともにミレニアム問題の解決に導くブレークスルーの達成を目指している. 本年度は初年度として古典流体における渦リコネクションの問題を推進した. 木村はMoffatt & Kimura (2019a, b)で得られた結果と比較するためにkIda, Takaoka, Hussain (1984) の手法を用いてガウシアン型のコアを持つ2つの傾いた渦輪を対称に配置した初期条件に対してNavier-Stokes方程式の直接数値計算(DNS)を実行した.計算は名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータ(FX100)を用いて1024^3の格子点を用いて計算を行った.結果としてDNSでは2つの渦輪の最近接点における曲率が成長せず,最大渦度がオーバーシュートできないことが観測された.この結果は途中経過としてシアトルで開催されたアメリカ物理学会で発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように昨年度の研究はMoffatt & Kimura (2019a,b)で得られた結果のDNSによる検証が一つの重要な課題であり,名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータ(FX100)使用による大規模数値シミュレーションの実施とそのデータ解析と理論との比較が研究代表者の主な業績であった.最大渦度の発展が力学系による予測とDNSで大きく異なることは,新たな研究のテーマを与える重要な観察であると考える.DNSで渦管に沿っての曲率が発展しないことはそれが渦輪の最近接点付近のメッシュ数の欠乏に拠るものなのか,それともMoffatt & Kimura (2019a,b)の力学系モデルとは異なる物理的な条件に拠るものなのかは現在のところ不明であるが今後それを明らかにすることは今後の大きな問題である. 研究分担者の藤原は博士後期課程の院生との共同研究でプログラムの並列化と厳密化によりKimura & Moffatt (2018)の捻れた渦輪におけるBiot-Savart モデルによる特異性の結果を検証するとともにさらに精度を上げる成果を上げつつある.以上、全体としてほぼ目的を達成することができ計画は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえて、以下の研究を推進し、結果をまとめていく。(1)大規模数値解析の実施:名古屋大学情報基盤センターにおいて令和2年度に新たに導入され7月より稼働するスーパーコンピュータ(FUJITSU PRIMEHPC FX1000)を用いて対称な2つの傾いた渦輪を初期条件とするNavier-Stokes方程式の直接数値計算(DNS)を行い,力学系による予想とDNSとの違いについて考察を行う.(2)分担者の藤原と共同し,Biot-Savartモデルの数値解析の改良を行い,セグメントの長さを渦度の伸長の度合いによって調整できるような数値解析法を導入し,より精密な特異性の解析を可能にする.(3)分担者の金田との共同研究の一環としてNavier-Stokes方程式のDNSコードの改良を行い,渦度の大きさに応じてのアダプティブなメッシュ間隔が実現できるようなスキームの構築を目指し,力学系モデルとDNSの結果の乖離の原因を追究する.(4)Moffatt & Kimura (2019a,b)の力学系の解に対応して2つの傾渦輪がリコネクション時に生成する渦音の音圧をLighthill の理論をもとに考察する.力学系の考察では渦度の時間発展はリコネクション時近傍で非常に特異的になり,大きな渦音が生成されることが予想できる.
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