研究課題
本年度は、既存の50テスラコイルを用いて実験を行いながら、X線チェンバーの改良と磁場発生効率の改良に取り組んだ。実験としては、グラファイトの電子相転移を調べるために強磁場実験をSwissFELにおいて実施し、幾つかの候補となる構造変調について検証する実験を実施した。今回の実験では磁場―温度相図上では相転移が生じている相にアクセスしたと考えられるが、磁場中での断熱的な温度変化なども考慮する必用があり、フォローアップの実験と、より低温強磁場領域での実験に向けた準備を進めた。その中で、1 K冷凍機を用いたX線回折により、試料の熱サイクルによる安定性などのチェックなども行い、実験上の問題点の洗い出しを進めた。YBCOのCDW転移においては、SALCAにおいて実験を実施し、チェンバー内での高次散乱をカットすることでバックグランドを落とし、SLACと同様に磁場中で3次元CDW転移を観測する事に成功した。その他のY系の超伝導体やPDWについても探索を行い、観測条件を詰める事に成功した。これにより、日本でも海外と同じレベルの実験が可能になった意義は大きく、今後の低温強磁場化に向けて大きく前進した。実験と平行して、磁場発生コイルの改良も取り組み、実験効率をあげるために、高熱伝導度のフィラーの導入と部品のセラミックス化を進め、磁場発生強度を保ちながら磁場発生間隔を大幅に減少させることに成功した。また、レーザー変位計により、コイルの動きをモニターすることで、コイルの動作状態の診断が可能になった。より強い磁場を発生するための2層コイルの作成に向けて、外コイルの設計と試験を進め、実用化に目処を付けた。2層コイルに対応した小型電源の製作を進め、作動試験を終了した。これらの改良により、高精度の実験を行う体制が整ったので、今後、グラファイトおよびYBCO系の PDW測定を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、初年度ではあるが、グラファイトおよび YBCOの強磁場実験をスイスと播磨で行うなど、順調に研究を進めることが出来た。特に、YBCOにおいて、これまで我々がSLACで行った実験でのみ観測された3次元CDWがSACLAでも観測出来た意義は非常に大きい。この実験では、PDW等の存在は確認出来なかったものの、多重散乱等の抑制により、バックグランドを下げるためのレシピが得られ、これによってチェンバーの改良の明確な指針が得られたため、改良したチェンバーを用いることで次回の実験でPDWの有無について一定の結論を出す事が期待出来る。磁場発生においては、効率良く磁場発生が出来るコイルの開発に成功したことに加えて、2層式コイルでより強い磁場を発生するための要素技術の開発が順調に進み、60テスラ領域の実現が見込める状態となっている。また、低温の実現についても、冷凍機の導入と、冷凍試験が順調に進捗しており、これまでアクセス出来なかった、強磁場低温領域での実験の目処が立ってきた。このように、より強い磁場を発生するという面と実際の物質への応用の両面で、十分な進捗が得られており、それゆえ、研究は概ね順調に進展していると判断出来る。
2020年度においては、2020年5月と10月に実験を予定していたが、最近の研究所の閉鎖により、5月のマシンタイムは後期に変更となり、10月の米国でのマシンタイムについても変更が予想されている。そのため、2020年度前期は、チェンバーの改良と強磁場化、低温化に集中して進めることで、研究計画に遅れが出ないように取り組む予定である。また、グラファイトについては、試料依存性を調べるために、1K冷凍機を用いたX線実験を引き続き進め、次の強磁場実験に向けて、2019年度の実験結果の解析と併せて取り組みを進める。このように進めることで、技術開発目標を2020年度の夏までに達成して、研究目的の基盤部分を確立するとともに、秋以降の集中的な実験に備えて準備を進める。また、実験時のアクセスが限られる事に対応して、チェンバーのリモート操作や自動運転化についても、順次整備し、多人数が現場に居なくても実験が行える体制を整備する。このようにすることで、海外出張が困難な場合でも、オンラインで作業を分担して実験を行うことが可能にする予定である。
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JPS Conf. Proc.
巻: 30 ページ: 011128-1-6
Physical Review B
巻: 100 ページ: 115145-1-15
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