研究課題/領域番号 |
19H00652
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
勝本 信吾 東京大学, 物性研究所, 教授 (10185829)
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研究分担者 |
遠藤 彰 東京大学, 物性研究所, 助教 (20260515)
中村 壮智 東京大学, 物性研究所, 助教 (50636503)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / ヘリカル端状態 / 量子ホール効果 / カイラル端状態 / 量子ビット |
研究実績の概要 |
2020年度,スピン偏極した量子ホール端状態の飛行量子ビット研究を更に推進した.偏極ビームを作った後,2つの量子状態に分離するビームスプリッターが,ゲート電極コーナーへの電圧印可により分離の割合を変化できることはすでに報告した.これについては論文化して出版した.ただし,この場合の分離割合は数パーセントが最大であり,量子情報操作には不十分であった.そこで,コーナー形状を変更して鋭角コーナーをまわるように変更し,またビームスプリッターの先で,偏極ビームを空間分離するようにした.この結果,ビームスプリッター割合を50%に上昇させ,また,干渉計の干渉パターン変調率を70%まで向上することができた.この明瞭な干渉パターンを詳細に調べることで,量子ホール端状態の多体効果についての情報を得られる可能性があり,その方向で実験を進めている. また,上記1量子ビットの実験に対し,2量子ビットの量子相関をノイズ測定で検証する準備を進めており,このための低温増幅器の開発を完了し,性能検証実験を行っている. InAs/GaSb系の成長を本格的に開始し,キャパシタンス分光を使って端状態の形成を調べた.ゲート電圧によりトポロジカル絶縁体状態を通過する際,キャパシタンスも極小値を取り,電気伝導が端状態にある程度偏っていることを確認することができた. InAsのアンドレーフ束縛状態超伝導に関しては,そのゲート電極による制御効果が結局端状態によるものではなかったことが明らかとなり,本研究テーマには沿わない結果となったが,量子デコヒーレンスに関して興味深い知見が得られた. トポロジカル表面状態を生じる可能性のある超格子系については,実験・理論の両面から進めているが,実験では想定していなかった電荷ソリトン状態が生じている結果が出ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子ホール端状態については,当初予定以上に現象の理解,その上に立っての新しい系の開発と更なる新現象の発見が進んでいる.2量子ビットの実験まで,予定より早く到達できる可能性がある. InAs/GaSb系については,想定のように色々と障害も生じているが,何とか粘って進めている.背面ゲートを使用するフェルミ準位調整が今のところゲート電極のリークにより思わしくないことが懸念ではあるが,試料作製条件により全面ゲートだけでも諸実験を実施できる可能性がある. 超伝導については,本課題には沿わない現象であることがわかり,一旦終結するが,上記InAs/GaSb系,また,MoS2系については継続可能である. 超格子系については,高周波振動現象など興味深い現象も出ているが,これらを何とか解決することが,本課題に進むために必要である. 以上を評価し,全体として概ね順調と考える.
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今後の研究の推進方策 |
量子ホール端状態系については,これまでに得られた多くの結果について,理論的な解釈を十分に行い,論文として出版することが必要である.研究の方向としては,ビームスプリッターについては,100%までの制御を目指す.また,一部のゲート領域で観測されている多体効果と考えられる現象について,干渉効果,またノイズ測定などを通して,その内容に迫りたい.候補としては,端のスピンテクスチュアが生じているという可能性があり,そうであった場合の考え得る応答など,理論的にも調べる必要がある. また,2量子ビット系については,これを目指す実験が順調に進んでおり,今年度中にテスト実験に取り掛かる予定である.外的要因による実験のシャットダウンが懸念材料である. 今年度からは,InAs/GaSb系を更に推進し,超伝導確認実験,垂直磁場によるヘリカルエッジの分離実験を進める予定である. 超格子系は,ソリトンの高周波発振が室温まで続いていて,興味深くはあるが,その形成を何とか抑えるために変調ドープを工夫するなど,試料構造を考えたい.そのためにもまずは理論的にこの発振現象を再現するモデルの構築が必要である.
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