研究課題/領域番号 |
19H00656
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 研介 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10302803)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メゾスコピック系 / 非平衡 / 非線形 / ゆらぎ / 量子輸送 / 近藤効果 / 量子ホール効果 |
研究実績の概要 |
微細加工技術を駆使して作製される固体素子は、印加電圧によって平衡状態から極端な非平衡状態までを連続的に制御することが可能であり、非平衡量子多体系の非線形応答を定量的に取り扱うことのできる理想的な舞台である。 2019年度は量子ドットにおける近藤効果の研究に取り組んだ。我々は、非平衡非線形領域にある微分伝導度について調べた。通常、近藤相関があるために、クラマース擬似スピンが保存されるようなバイアス電圧においては、本来は伝導が生じない。ところが、我々は、そのようなバイアス電圧においても伝導が観測されることを実験的に見出した。この現象は、そのバイアス電圧において擬似スピンが保存しないような2種類の遷移が共鳴し強め合うことによって生じることを理論的に明らかにした。2つのクラマース二重項とリード線との結合が非対称であることがその原因である。この成果は、たとえ平衡から遠く離れた状況にあったとしても、対称性を通じて近藤効果が輸送現象に姿を表すことを微視的に実証したものと言える。 GaAs/AlGaAsトンネル結合二重量子井戸構造の中に実現された2層2次元電子系上に量子ポイントコンタクト構造を作製し、量子輸送過程を伝導度とショット雑音測定によって精密に調べた。その結果、二重井戸のトンネルバリアを横切るポテンシャル勾配に起因するラシュバ型のスピン軌道相互作用が重要な役割を果たしていることを実証した。 上記以外にも、スピン軌道トルクによる磁化の準安定状態の実現や、電流雑音測定のための低温増幅器の開発に取り組んだ。このような研究は、非平衡非線形領域における物理の開拓に直接資するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、理論家との緊密な議論を通じて、非平衡非線形領域にある状況でも混同相関が生き残っていることを示すことができた。この成果は、Phys. Rev. B誌のRapid Communicationsとして出版された。また、量子ドットにおける近藤効果についての総説論文をJ. Low. Temp. Phys.誌に出版した。その他、磁化の準安定状態の実現の研究や、低温増幅器の開発が順調に進展したこと、関連研究において、複数の論文出版を行ったことから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、平衡状態がよく理解されている普遍性の高い現象である近藤状態および量子ホール端状態に対して、その非線形非平衡輸送を定量的に明らかにすることである。具体的には、メゾスコピック系において高精度電流・電流ゆらぎ測定を用いて、近藤状態における非線形非平衡輸送、量子ホール端状態とそのブレークダウンを解明し、さらに近藤状態と量子ホール端状態を舞台として熱流・スピン流検出手法の開発とその適用を行う。 今後は、近藤状態における三体相関検出の手法を完成させる。具体的には、カーボンナノチューブ量子ドットにおいて、ユニタリ極限に達する理想的な近藤状態に対して測定された微分伝導度をもとに、実験と理論を精密に比較し、非平衡フェルミ液体論を検証する。特に、磁場中やゲート電圧を制御して電子数を変化させながら測定を行い、時間反転対称性や電子正孔対称性が破れた場合など、幅広い領域において三体相関を議論する。 また、電荷だけではなく、磁化のゆらぎを検出する手法として、ダイヤモンドNVセンタに注目している。NVセンタをメゾスコピック系における近藤状態や量子ホール端状態の非平衡特性検出の手段として用いるための基盤的な研究を行う。
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備考 |
第37回(2019年度)大阪科学賞受賞「固体素子におけるゆらぎと非平衡機能に関する実験的研究」(大阪府、大阪市及び一般財団法人 大阪科学技術センター)
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