研究課題
微細加工技術を駆使して作製される固体素子は、印加電圧によって平衡状態から極端な非平衡状態までを連続的に制御することが可能であり、非平衡量子多体系を定量的に取り扱うことのできる理想的な舞台である。2020年度の主たる成果は以下のとおりである。[1] 我々は、磁場中における量子ドットの非線形微分伝導度を精密に解析し、近藤効果に特有の三体相関を検出した。得られた結果は、近年の非平衡領域におけるフェルミ液体論とよく整合する。[2] 磁気トンネル接合(MTJ)へスピン流を注入した場合に生じる非線形発振現象を観測した。マイクロマグネティクスによる数値計算により非線形状態におけるマルチモード発振のメカニズムを解明した。[3] メゾスコピック系の高精度の非平衡電流ゆらぎ測定のために、自作のGaAs高電子移動度トランジスタ(HEMT)を用いた極低温増幅器を自作した。熱雑音を用いた測定を行い、作製した増幅器が希釈冷凍機温度(0.1~K以下)でのメゾスコピック素子の電流雑音測定に適していることを示した。我々の増幅器は、これまで用いられてきた市販のHEMTを使用して作られた増幅器よりも高精度・高効率な電流雑音測定を可能とする。雑音測定系を用いて、グラフェンにおける量子ホール効果崩壊現象について測定を行った。[4]ダイヤモンドのNV(窒素空孔)センタは量子力学的な原理に基づいて磁場や温度を精密に測定できる量子センサである。我々はこの技術を、非平衡量子多体系の計測に適用すべく、磁場イメージング温度イメージングの開発を行い、いずれも、数マイクロメートルスケールでのイメージングに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
2020年度は、近藤状態における三体相関の理解が進展し、理論との整合性を高い精度で確認することができた。これは本研究開始時の予想以上に進展したものであり、今後の非平衡量子液体の研究に資する定量性と普遍性の高い成果になったと自負している。また、本研究では「熱流・スピン流検出手法の開発とその適用」を三本柱の一つとしている。雑音測定以外の手法も必要と考え、ダイヤモンドNVセンタを用いた量子計測技術の開発を行ってきた。2020年度は、基本的な測定装置が用意でき、高い精度が得られることがわかった。当初は、もう少し時間がかかると想定していた段階まで進めることができた。以上により、「当初の計画以上に進展している」との判断に至った。
2020年度の成果をもとに、近藤状態における三体相関についての研究を完成させ、論文発表を行いたい。本成果は、非平衡量子液体の実験的・理論的研究に資するものと考えている。また、これまでに磁気トンネル接合の研究を行い、非線形伝導度について系統的かつ詳細なデータを得ている。磁気トンネル接合は、極めてシンプルな系であり、そこで発現する非線形輸送を理解は普遍的な成果につながると考えている。現在、マグノンの寄与を考慮して実験結果を説明するモデルを構築中であり、今後、それを完成させたい。磁場や温度を計測する手段としてのダイヤモンドNVセンタの研究をさらに進める。現在、我々の測定系は室温付近に限られているが、今後は、低温での測定を行えるように開発を行い、NVセンタを用いたメゾスコピック系の研究を展開していく。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
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