研究課題/領域番号 |
19H00656
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 研介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10302803)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メゾスコピック系 / 非平衡 / 非線形 / ゆらぎ / 量子輸送 / 近藤効果 / 量子ホール効果 / 量子計測 |
研究実績の概要 |
微細加工技術を駆使して作製される固体素子は、印加電圧によって平衡状態から極端な非平衡状態までを連続的に制御することが可能であり、非平衡量子多体系を定量的に取り扱うことのできる理想的な舞台である。2021年度の主たる成果は以下のとおりである。 [1] 我々は、磁場中における量子ドットの非線形微分伝導度を精密に解析した。近藤効果に特有の三体相関を検出し、非平衡領域に拡張されたフェルミ液体理論と詳細な比較を行った。本成果はNature Communications誌に出版された。 [2] 磁気トンネル接合(MTJ)における非平衡非線形伝導を詳細に調べ、マグノン支援トンネルが起きている可能性について議論した結果をPhys. Rev. B誌に出版した。 [3] 非平衡電流ゆらぎは非平衡量子多体系を調べる強力なプローブである。我々の成果も含む2000年以降の実験的な発展を概観する総説論文をJ. Phys. Soc. Jpn誌に発表した。本総説は今後のショット雑音研究において、良い道標になるものと考えている。 [4]ダイヤモンドのNV(窒素空孔)センタは量子力学的な原理に基づいて磁場や温度を精密に測定できる量子センサである。我々はこの技術を非平衡量子多体系の計測に適用すべく、特に、磁場イメージング温度とイメージングに注力しながら開発を行っている。2021年度も前年度の結果をさらに発展させ、磁場や温度のイメージングに新しい手法を編み出した。機械学習を精密測定に適用することに成功した。また、フロケエンジニアリングを用いた非平衡量子系への適用も開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、近藤状態における三体相関の論文を出版することができた。今後の非平衡量子液体の研究に資する定量性と普遍性の高い成果になったと自負している。また、磁気トンネル接合における非線形伝導の微視的メカニズムを解明した。さらに、本研究では「熱流・スピン流検出手法の開発とその適用」を三本柱の一つとしている。雑音測定以外の手法として、ダイヤモンドNVセンタを用いた量子計測技術の開発を行ってきた。2021年度は開始して2年目に当たるが順調な進展を見ている。以上により、このような判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の成果をもとに、磁場や温度を計測する手段としてのダイヤモンドNVセンタの研究をさらに進める。現在、機械学習と組み合わせて磁場を高精度に読み出すことや、フロケエンジニアリングを用いた非平衡制御の研究を進めている。今後はマグノンの時空間分解観測や、低温での測定にも取り組み、NVセンタを用いたメゾスコピック系の研究を展開していく。
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備考 |
アウトリーチ:小林研介、「ナノテクノロジーと量子計測」、令和3年度「東大の研究室をのぞいてみよう!~多様な学生を東大に~」プログラム(2022年3月28日)。対象:高校生。
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