研究実績の概要 |
1. 低電流による単一スキルミオン及びその結晶状態の制御: 磁壁の移動に必要な電流密度より3桁低い電流密度の電流パルスによる、らせん磁性体FeGeのマイクロデバイス中の80nmの単一スキルミオンとその結晶の生成、消滅、移動することに成功した。また、スキルミオンクラスターのトルクモーションを世界で初めて直接観察することにも成功した[X.Z. Yu, et al., Science Advances, 6, eaaz9974(2020)]。 2. 原子スケールスキルミオンの正方格子の直接観察: 希土類合金GdRu2Si2において、過去最小となる直径1.9nmスキルミオンの正方格子の直接観察に成功した[N. D. Khanh, X. Z. Yu, et al., Nature Nanotechnology,(2020)]。本研究結果は、スキルミオンを用いた超高密度の情報処理が可能な電子デバイスの創出への役割を果たすと思われる。 3.磁場・温度誘起スキルミオンとアンチスキルミオンの相互変換: 本研究では、D2d 空間対称性を有するMn1.4Pt0.9Pd0.1Sn の磁気構造の外部磁場下での変化を系統的に観察し、そのトポロジカル状態を制御した。Mn1.4Pt0.9Pd0.1Snの薄片試料に面内磁場の印加や温度を変えることで、正方形のアンチスキルミオン(トポロジカルチャージは+1)の正方格子から楕円形のスキルミオン(トポロジカルチャージは-1)の三角格子への変化、または外部磁場でスキルミオンヘリシティーの制御が可能であることが分かった[発表論文1]。外部磁場や温度変化によりスキルミオン、アンチスキルミオンとそれらの格子構造の制御が出来たことは、トポロジカルスピンテクスチャの多様性、制御の可能性、またはこれらを用いた電子デバイスへの応用に新たな一歩を邁進した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、三軸(x,y,z)傾斜可能の顕微鏡観察用試料ホルダーを導入し、三次元のマイクロピラー中に様々なトポロジカル・スピンテクスチャの周期構造(例えば、スキルミオン(Sk)の正方格子、一次元Skチェーン等)を誘起し、そのダイナミクスを実空間観測することを目指す。特に、枝分かれしたSkストリングや、ちぎれたSkストリングの内部変形によって生じた磁気単極子・反磁気単極子対、またはホプフォインやアンチスキルミオンの三次元スピンテクスチャの可視化を目指す。 研究計画は以下である。 1.マイクロピラーの作製および三次元磁気構造の二次元投影の観察:ヘッジホッグ磁気構造やアンチスキルミオンを生成可能な物質を選定し、集束イオンビームによるマイクロピラーを加工する。次は、ゼロ磁場でのピラーの三次元磁気構造の準安定状態を実現し、これらの構造の二次元投影像を取得する。具体的に、試料中に現れる千切れたスキルミオン紐の端点や枝分かれしたスキルミオン紐の接点に現れるヘッジホッグ スピンテクスチャ(モノポール)、またはアンチスキルミオンのブロッホライン等の微小な三次元トポロジカル構造とそのダイナミクスを直接観察する。また、外部刺激を加え、これらの三次元トポロジカル磁気構造の発生・消滅、またはトポロジカル磁気相の相転移、相分離などをその場で観察し、様々なトポロジカル構造をもたらす機構を解明する。 2.三次元磁気構造の構築:高角傾斜可能の試料ホルダーを活用し、ヘッジホッグの三次元磁気構造の多方向の二次元顕微鏡像を取得し、三次元磁気構造の再構築を行う。取得した三次元磁気構造と電子線位相の三次元分布(磁気構造は電子線位相の微分に比例している)のシミュレーション結果を照合した後、再度、二次元投影像を取得する。実験とシミュレーションで得られた三次元磁気構造とシミュレーションの差異が最小となるよう繰り返し操作する。
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