研究実績の概要 |
本年度の研究実績は下記のようになった。 S4対称性を持つ新規トポロジカル磁性体Fe1.9Ni0.9Pd0.2Pを用いて、磁場下のローレンツ電子顕微鏡観察で、室温を含む広い温度領域にアンチスキルミオン(antiSk)およびantiSkの格子を実証した。試料の厚さを変えることで、磁気構造が劇的に変化し、薄板試料中にSkの三角格子は現れるが、厚さ100nm以上の厚い板試料にantiSkの正方格子が形成される。厚さはさらに1μmを超える厚い試料の表面では、結晶の対称性(S4)を反映したノコギリ型の新しい磁気ドメイン構造が形成されることが分かった[K. Karube, et al., Nature Materials, 20, 335 (2021)]。 二次元Van de Waals磁性体Fe3GeTe2(FGT)と重い貴金属(Pt、Auなど)の界面状態(スピンー軌道相互作用)を制御することで、新たなネール型Skとその格子状態の生成およびネール型―ブロッホ型Sk間の転換を見出した[Tae-Eon Park et al., Phys Rev B103, 104410 (2021)]。 理論で予測されたヘッジホッグ スピンテクスチャやSk紐を、ナノスケールらせん磁性体中に励起し、その二次元射影像をローレンツ電顕を用いて観察した。まず、カイラル磁性体Co-Zn-MnとFe-Co-Geナノプレートに面内磁場を加え、プレート面に平行したSk紐の周期構造を励起した。次に、面内磁場を印加したまま、試料を100Kまで冷却し、準安定Sk紐を生成した。中には、千切れたSk紐や枝分かれしたSk紐の存在、またはSk紐上に現れたヘッジホッグ スピンテクスチャの生成・消滅現象は実空間観察により明らかになった[X.Z. Yu, et al., Nano Letters 20, 7313 (2020)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在の研究進捗は当初の研究計画を上回る進展している。その理由は以下である。 1). 様々な三次元トポロジカル磁気構造の可視化:準安定単一Sk紐、antiSk、らせん磁気構造の三次元スピンテクスチャの電子顕微鏡観察を行った。試料中に現れた千切れたSk紐の端点や枝分かれしたSk紐の接点に現れるヘッジホッグ スピンテクスチャ(モノポール)、またはantiSkのブロッホライン等ナノスケール三次元トポロジカル構造の可視化ができた (X.Z. Yu, et al., Nano Letters 20, 7313 (2020)、Fehmi S Yasin, et al.,Adv. Mater. 32, 2004206 (2020))。 2). 電流・熱流でSk駆動ダイナミックスの直接観察:「電流」、「マグノン流」、「熱流」に対する(anti)Skの「駆動ダイナミックス」、「生成・消滅・スイッチング現象」を、実空間からアプローチし、直接観察している。磁気Skが「極微小電流注入により並進運動、数個Skクラスターの回転運動、ホール運動」を起こすことや「熱流や熱励起マグノン流により、Skクラスターの熱ホール運動を起こすことを明らかにした(X. Z. Yu, et al.Science Advances 6, eaaz9744 (2020))。 3). 三次元磁気構造の磁場マップの構築:高角傾斜可能の試料ホルダーを活用し、三次元磁気構造の多方向入射の二次元顕微鏡像を取得する。これらの二次元イメージを用いて三次元磁気構造の再構築に成功した。取得した三次元磁気構造と電子線位相の三次元分布(磁気構造は電子線位相の微分に比例している)のシミュレーション結果を照合し、三次元磁気構造の磁場マップの構築できた。現在、研究成果を纏めている。
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