研究課題/領域番号 |
19H00660
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
于 秀珍 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (30538244)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 三次元トポロジカル磁化構造 / スキルミオン / 熱流駆動 / 三次元ローレンツ顕微法 / アンチスキルミオン / スピンヘッジホッグ / 電流駆動 |
研究実績の概要 |
本年度の計画は、マイクロピラー状試料と3次元磁化構造の実空間顕微観察である。得られた成果は以下である。 成果1:3次元磁化構造を観察するために、集束フォカースイオンビームを用いた種々な磁性体のピラー状試料の作製を行って、試料のサイズおよび形状を3次元観察できるように最適化した。2次元傾斜シリーズ像から、3次元磁化構造を得るため、試料の傾斜角、デーフォカス値、試料の厚さなど様々のパラメータを最適化し、三次元ローレンツ電子トモグラフィー法を確立した。この方法を用いた、アンチスキルミオン、スキルミオンストリング、スピンヘッジホッグの三次元スカラー場およびベクトル場の分布の知見を得ることが出来た。確立した三次元磁化構造の顕微技法とそれを用いた三次元磁化構造の観察結果をnature communicationsへ投稿した。 成果2:3次元マイクロマグネティック シミュレーションと電子線ホログラフィーを併用して、FeGeナノ粒子の磁化構造を定量的に評価した。粒子のサイズと粒子の形状を系統的に考察し、ナノ粒子中の磁気ボルテックスの安定性と粒径サイズの依存性を明らかにした(Nature Materials 21, 305 (2022))。 研究計画予想以上の成果:次年度の研究計画を前倒して、スキルミオンの電流・熱流下のダイナミクッスの直接観察を行った。室温において、ナノ秒パルス電流で単一スキルミオンのレーストラックに成功した。この成果は、スキルミオンを用いる次世代のエレクトロニクスへの応用に向けて、重要な一歩を邁進した(Nature communications 12, 6797 (2021))。 また、世界で初めて、微小な熱流で絶縁体中のスキルミオンを駆動することに成功し、新たなスキルミオンの駆動方式を見出した(Nature Communication 12, 5079 (2021)) 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
次年度の「磁場、電流、熱流などの摂動に対するトポロジカル磁気構造の駆動ダイナミクスの考察」研究計画を前倒して、研究を推進した。今までよく知られた2次元トポロジカル磁気構造―スキルミオンを用いて、その電流・熱流下のダイナミクッスの直接観察を行った。まず、室温で直径約100ナノメートル(nm)の単一スキルミオンをマイクロデバイス中に生成させ、その運動をリアルタイムで追跡した。電流の大きさの増加に伴い、スキルミオンの静止状態(ピンニング)、クリープ運動、そしてホールモーションを観察した。さらに、スキルミオンの電流下のホール運動を検証するため、試料への印加外部磁場を反転させた。磁場の反転に伴うスキルミオンのホール運動の方向が反転する現象が現れ、理論で予測したスキルミオンのホールモーションの結果と一致することを本研究で明らかにした(Nature communications 12, 6797 (2021))。 これまで、スキルミオンは金属中では微小電流によって駆動させられることが分かっていたが、絶縁体中でのスキルミオンの熱流駆動について、理論で予言されたものの、実験で実証されていなかった。本研究は、絶縁体Cu2OSeO3の薄板に垂直な磁場を加えて、直径約60nmのスキルミオンをクラスター状に生成し、この薄板の片端に設置されたヒーター線に電流を流し、電流に直交する方向に微小な温度勾配(約0.02K/mm)をつけて、熱流を発生させた。そして、熱流下のスキルミオン クラスターの動的振る舞いを電子顕微鏡で追跡した。その結果、スキルミオンが低温側から高温側に流れることが分かった。このスキルミオン駆動に必要な熱流は、従来の金属中における磁壁の駆動で必要な熱流の100分の1程度でした(Nature Communication 12, 5079 (2021)) 。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究計画は、1)ダメージフリーの集束イオンビーム(FIB)加工法を用いた、様々なナノ磁性体とマイクロデバイスの作製、2) 新規3次元トポロジカル磁気テクスチャの顕微観察、3) 磁場、電流、熱流などの摂動に対するトポロジカル磁気構造の駆動ダイナミクスの考察である。具体的な方案は:1)電流・熱流でスキルミオン以外の単一トポロジカル構造体の駆動ダイナミックスのローレンツ電顕観察、2)制限された空間(ナノワイヤ、ナノプレート)で生成されたトポロジカル磁化構造の安定性および相転移察、3)三次元ローレンツ電子顕微鏡法と電子線ホログラフィー法を用いて、Hophion、meron、bimeronなどの三次元磁気構造及びそのダイナミックスの実空間観察、4)新規三次元電子位相顕微法(3D-DPC)の開発である。
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