研究課題
成果1: 新たに開発されたローレンツ電子顕微鏡トモグラフィー技法を用いて、様々な三次元トポロジカル磁気構造(アンチスキルミオン、変形したスキルミオン紐、磁気モノポール)のベクトル場の分布を直接計測することが出来た。成果2: 空間中心対称を持たないらせん磁性体FeGeにおいて、世界で初めて三次元カイラルソリトン(hopfion)を生成・観察に成功した。さらに、その場観察顕微技法を用いて、電流誘起によるhopfion集合体のホール運動および電流の極性の反転に伴い、電流方向へhopfionの伸び、縮みを明らかにした。成果3: 電流誘起による単一スキルミオンの変形をその場観察し、スキルミオンが電流下で円形から楕円形に変形することが判明した。電流密度が8.46 A/m2の場合、スキルミオンの離心率は約20%であり、スキルミオンのコアは電流下で膨張することが分かった。さらに、スキルミオンは変形するものの、そのトポロジーに守られたトポロジカル性質(トポロジカル数)は変化しないことが明らかになった。成果4: (Fe,Ni)3P金属磁性体にPdをドープすることで、室温で安定なアンチスキルミオンが形成され、その安定性の試料形状や結晶方位依存性を考察した。試料境界は[110]および[-110]結晶軸に沿った正方形試料の中に、アンチスキルミオンの正方格子が安定的に生成されることが実空間観察によって明らかになった。一方、菱面形状や三角形の試料において、アンチスキルミオンが崩れやすく、歪んだ格子構造であることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、スピンモアレ超構造における磁気スキルミオンの存在が理論計算により示唆されたものの、実験的に観察されていなかった。本研究は、共同研究者より育成された層状構造を持つ半金属磁性体の薄片において、ゼロ磁場中に直径約4nmのスキルミオンが極低温(8K)ローレンツ電子顕微鏡法で観察された。従来の空間反転対称性の破れた結晶構造の下で生じるジャロシンスキー・守谷相互作用と呼ばれるらせん磁性体における生成されたスキルミオンと違って、スピンモアレ超構造中に現れたスキルミオンのスピンの回転方向は二つあることが判明した。今回の結果によって、新機構に由来したスカイルミオンの生成機構、そして新たなトポロジカル構造体の発見へ繋がると期待できる。
2023年度の研究計画は、1) 電、磁場、電流、熱流等による三次元トポロジカル磁気テクスチャ(アンチスキルミオン、モノポール、ホプフィオン)の駆動ダイナミクスの実時空間観察、解明、2) 種々トポロジカル電子状態における非相反電磁応答の実証、3)トポロジカル相の形態制御、4)昨年度に続き、三次元電子位相顕微法(3D-DPC)の開発である。具体的な実施項目は以下の通り:・トポロジカル磁性体における様々な三次元トポロジカル磁気構造(ホプフィオン、バイメロン、ハイブリッド・スピンテクスチャ)を電子顕微鏡中で外部刺激(例えば、磁場、熱流、パルス電流、圧力など)より励起し、そのダイナミクスを直接観察する。得られた実験結果とマイクロマグネテック・シミュレーションを照らし合わせることで、三次元トポロジカル磁気構造の駆動ダイナミックスを解明する。・らせん磁性体を用いて、交流電流下の1)らせん磁気構造、2)スキルミオン、3)バイメロンの状態変化に伴う創発インダクタの発生機構を考察する。・理論・実験の両面から、トポロジカル相の形態制御にアプローチし、異なるトポロジカル磁気テクスチャ間の相互変換(スイッチング)現象を考察する。さらに、三次元顕微鏡組み込み型ナノインデンテーションシステムを操作して、観察対象試料に応力を導入し、三次元トポロジカル構造体の形状を制御する。・三次元電子位相顕微法(3D-DPC)を開拓し、種々の三次元磁化構造の可視化を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
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