相対論プラズマ中での多段階イオン加速による準単色陽子加速の物理とその実証

2019 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 19H00668
• 研究機関: 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
• 研究代表者: 福田 祐仁 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 上席研究員(定常) (30311327)
• 研究分担者: 神野 智史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80596924) ; 金崎 真聡 神戸大学, 海事科学研究科, 助教 (90767336) ; 坂和 洋一 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (70242881) ; 蔵満 康浩 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70456929)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: レーザーイオン加速 / 無衝突衝撃波 / 自発的構造形成 / 自己生成磁場 / 水素クラスター

研究実績の概要

本研究では、レーザーイオン加速では未踏の準単色300 MeV高純度陽子線加速の実証を目指す。今年度は、この目的を達成するための基盤技術開発を中心に進めた。
(I-1) プラズマミラーを用いたプレパルス制御では、集光光学系の後に挿入する小型ダブルプラズマミラーの試作品の製作を行い、大阪大学のレーザー装置にて性能評価を行った。(I-2) クラスターサイズ分布のコントロールでは、クラスター生成装置のノズル温度とガス圧を様々に変化させ、サイズ分布変動の基礎データを取得した。(I-3) ガスジェットの整形では、特殊形状のスキマーの仕様検討を行い、試作品を制作した。
(II-1) 高感度磁場計測装置の開発では、TGG結晶とネオジム磁石から構成される"模擬ターゲット"を用い、磁場計測システムの構築を行った。(II-2) 原子核乾板を用いたイオン計測手法開発では、HIMAC加速器を用いた実験を実施し、飛跡情報に関する基礎データの取得を行い、粒子輸送モンテカルロコード(PHITS)を用いた解析を実施した。(II-3) イオン-電子同時計測トムソンパラボラシステムの開発では、高機能荷電粒子設計用計算コード(AMAZE)を用い、100 MeV級の陽子線と電子のオンライン同時計測が可能なシステムを設計し、装置の製作を行った。(II-4) 極短寿命の無衝突衝撃波観測手法の開発では、様々な計測手法について検討し、光ゲートを用いた装置の試作を行った。
(III) 大型レーザー実験は、実施しなかった。
(IV) 2018年9月に実施したJ-KAREN-Pレーザーを用いた準単色陽子線発生の実験結果に対し、新たにシミュレーションを実施し、プレパルスの影響による実効的なクラスターサイズの縮小、及び、集光スポット内の強度分布による実効的なレーザ集光強度の低下、が実験と理論の不一致の主要な原因であることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2018年9月に実施したJ-KAREN-Pレーザーを用いたイオン加速実験の詳細なデータ解析により、マイクロ水素クラスター内での衝撃波加速によると思われる23 MeVの準単色陽子線発生を確認した。この成果は、研究代表者らが発見した、マイクロ水素クラスターを用いた２段階加速手法（CSBA= Converging Shock-induced Blow-off Acceleration）[1]の原理検証実験に成功したことを意味する。実験と理論との一致が良くないため、その要員を1つ1つ解決して行く必要があるが、本研究の目的である、"レーザーイオン加速では未踏の300 MeVの高エネルギー準単色陽子線発生"に向けて大きく前進した、と言える結果を得た。

参考文献：[1] R. Matsui, Y. Fukuda, and Y. Kishimoto, Phys. Rev. Lett. 122, 014804 (2019).

今後の研究の推進方策

(I-1) プラズマミラーを用いたプレパルス制御に関し、運営費交付金により、R2年度中に関西研に共用施設としてダブルプラズマミラーが整備されることとなった。これを受け、本研究で予定していた”集光光学系の後に小型のダブルプラズマミラーを導入する”必要性はなくなった。今後、(I-1)では、プラズマミラーシステム導入によるレーザー光の波面歪みの影響の評価について、検討を行ってゆくこととする（担当：福田）。

(II-2) 原子核乾板を用いた300 MeVイオン計測手法開発は、順調に進んでおり、本イオン検出器の開発は成功すると目論んでいる。ところが、本イオン検出器は積分型であり、実験終了後の現像作業が要求される。将来的には、即時性を有するオンライン型GeV級イオン検出器が必要となってくると考えられる。そこで、今年度から、新たに、"オンライン型サブGeVイオン検出手法の開発"を行ってゆくこととする（担当：蔵満）。

研究成果

• [国際共同研究] Laboratoire d'Optique Applique(フランス)
  • 国名: フランス
  • 外国機関名: Laboratoire d'Optique Applique
• [国際共同研究] Queen's University Belfast(英国)
  • 国名: 英国
  • 外国機関名: Queen's University Belfast
• [国際共同研究] Joint Institute for High Temperatures(ロシア連邦)
  • 国名: ロシア連邦
  • 外国機関名: Joint Institute for High Temperatures
• [雑誌論文] Quasimonoenergetic Proton Bunch Acceleration Driven by Hemispherically Converging Collisionless Shock in a Hydrogen Cluster Coupled with Relativistically Induced Transparency (2019)
  • 著者名/発表者名: Matsui Ryutaro、Fukuda Yuji、Kishimoto Yasuaki
  • 雑誌名: Physical Review Letters 巻: 122 ページ: 014804-1-6
  • DOI: 10.1103/PhysRevLett.122.014804
  • 査読あり
• [雑誌論文] Application of nuclear emulsions for the identification of multi-MeV protons in laser ion acceleration experiments (2019)
  • 著者名/発表者名: Asai Takafumi、Kanasaki Masato、Jinno Satoshi、Kitagawa Nobuko、Shutoh Nobumichi、Kodaira Satoshi、Yamauchi Tomoya、Oda Keiji、Morishima Kunihiro、Fukuda Yuji
  • 雑誌名: High Energy Density Physics 巻: 32 ページ: 44～50
  • DOI: 10.1016/j.hedp.2019.04.002
  • 査読あり
• [雑誌論文] Dynamics of the boundary layer created by the explosion of a dense object in an ambient dilute gas triggered by a high power laser (2019)
  • 著者名/発表者名: Matsui Ryutaro、Fukuda Yuji、Kishimoto Yasuaki
  • 雑誌名: Physical Review E 巻: 100 ページ: 013203-1-19
  • DOI: 10.1103/PhysRevE.100.013203
  • 査読あり
• [雑誌論文] Collisionless electrostatic shock acceleration of proton using high intensity laser (2019)
  • 著者名/発表者名: Ota M.、Morace A.、Kumar R.、Kambayashi S.、Egashira S.、Kanasaki M.、Fukuda Y.、Sakawa Y.
  • 雑誌名: High Energy Density Physics 巻: 33 ページ: 100697～100697
  • DOI: 10.1016/j.hedp.2019.100697
  • 査読あり
• [雑誌論文] 宇宙線発生の仕組みを利用した新たな加速器の提案 (2019)
  • 著者名/発表者名: 松井隆太郎、岸本泰明、福田祐仁
  • 雑誌名: Isotope News 巻: 765 ページ: 2-5
  • オープンアクセス
• [雑誌論文] マイクロメートルスケール水素クラスター発生装置の開発とmulti-MeV高純度陽子線の高繰り返し発生 (2019)
  • 著者名/発表者名: 神野智史、金崎真聡、松井隆太郎、岸本泰明、小田啓二、山内知也、上坂 充、桐山博光、福田祐仁
  • 雑誌名: プラズマ・核融合学会誌 巻: 95 ページ: 483-489
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Relativistic laser plasma of gas cluster targets - particle and X-ray diagnostics (2019)
  • 著者名/発表者名: Yuji Fukuda
  • 学会等名: European Conference on Plasma Diagnostics (ECPD) 2019
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Collisionless shock acceleration of quasimonoenergetic protons under the action of femtosecond laser pulse irradiation on micron-scale spherical hydrogen clusters (2019)
  • 著者名/発表者名: Yuji Fukuda
  • 学会等名: International Symposium on Ultrafast Intense Laser Science (ISUILS) 2019
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] CSBA (=Converging Shock-induced Blow-off Acceleration) -J-KAREN-Pレーザーを用いた「光速」に近い陽子加速への挑戦- (2019)
  • 著者名/発表者名: 福田祐仁
  • 学会等名: プラズマ科学のフロンティア2019研究会
  • 招待講演
• [学会発表] Generation of Quasimonoenergetic Proton Bunch via Interaction of Micron-Scale Hydrogen Cluster Targets with PW-Class Laser Pulses (2019)
  • 著者名/発表者名: Y. Fukuda, M. Kanasaki, S. Jinno, K. Sakamoto, T. Asai, K. Shimizu, A. Pirozhkov, A. Sagisaka, K. Ogura, Y. Miyasaka, K. Kondo, R. Matsui, N. Kitagawa, K. Morishima, S. Kodaira, K. Oda, T. Yamauchi, M. Uesaka, K. Kondo, T. Kawachi, M. Kando, H. Kiriyama, Y. Kishimoto
  • 学会等名: 11th International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications (IFSA 2019)
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Quasimonoenergetic proton bunch via interactions of micron-scale hydrogen cluster targets with PW-class laser pulses (2019)
  • 著者名/発表者名: Y. Fukuda, M. Kanasaki, S. JINNO, K. Sakamoto, T. Asai, K. Shimizu, A. Pirozhkov, A. Sagisaka, K. Ogura, Y. Miyasaka, K. Kondo, R. Matsui, N. Kitagawa, K. Morishima, S. Kodaira, K. Oda, T. Yamauchi, M. Uesaka, K. Kondo, T. Kawachi, M. Kando, H. Kiriyama, Y. Kishimoto
  • 学会等名: 3rd Asia-Pacific Conference on Plasma Physics (AAPPS-DPP2019)
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] X ray diagnostics of hot dense plasma created by the action of 10 PW ultra-intense laser pulses on micron-scale cluster targets (2019)
  • 著者名/発表者名: Yuji Fukuda, Sergey A. Pikuz
  • 学会等名: 1st ELI-NP User Workshop
  • 国際学会
• [学会発表] A challenge towards generation of sub-GeV quasimonoenergetic protons via the Converging Shock-induced Blow-off Acceleration (CSBA) with 10 PW laser pulses (2019)
  • 著者名/発表者名: Yuji Fukuda
  • 学会等名: 1st ELI-NP User Workshop
  • 国際学会
• [学会発表] Application of Nuclear Emulsions for the Identification of Laser-accelerated Multi-MeV Protons (2019)
  • 著者名/発表者名: Takafumi Asai, Masato Kanasaki, Satoshi Jinno, Nobuko Kitagawa, Nobumichi Shutoh, Satoshi Kodaira, Tomoya Yamauchi, Keiji Oda, Kunihiro Morishima, Yuji Fukuda
  • 学会等名: International Conference on Materials and Systems for Sustainability 2019 (ICMaSS2019)
  • 国際学会
• [学会発表] Identification Method of Carbon Ions using Solid State Nuclear Track Detectors for Laser-driven Ion Acceleration Experiments (2019)
  • 著者名/発表者名: Takamasa HIHARA, Masato KANASAKI, Keita SAKAMOTO, Takafumi Asai, Satoshi KODAIRA, Keiji Oda, Tomoya Yamauchi, Yasuhiro KURAMITSU, Yuji FUKUDA
  • 学会等名: 11th International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications (IFSA 2019)
  • 国際学会
• [学会発表] マイクロ水素クラスターを用いたレーザー衝撃波駆動準単色陽子加速 (2019)
  • 著者名/発表者名: 福田祐仁、金崎真聡、神野智史、松井隆太郎、樹下真治、ピロジコフ アレキサンダー、匂坂明人、小倉浩一、宮坂泰弘、近藤康太郎、浅井孝文、清水和輝、坂本渓太、北川暢子、森島邦博、小平 聡、小田啓二、山内知也、上坂 充、近藤公伯、河内哲哉、神門正城、桐山博光、岸本泰明
  • 学会等名: 日本物理学会2019年秋季大会
• [学会発表] リアルタイムトムソンパラボラスペクトロメータを用いた水素クラスターターゲットから発生した陽子線のエネルギースペクトル計測 (2019)
  • 著者名/発表者名: 清水和輝、神野智史、金崎真聡、浅井孝文、坂本渓太、小田啓二、山内知也、古山雄一、谷池 晃、福田祐仁
  • 学会等名: 第80回応用物理学会秋季学術講演会
• [学会発表] 固体飛跡検出器CR-39を用いた数百MeV級陽子線用エネルギースペクトロメータの開発 (2019)
  • 著者名/発表者名: 坂本渓太、金崎真聡、浅井孝文、神野智史、山内知也、小田啓二、福田祐仁
  • 学会等名: 第80回応用物理学会秋季学術講演会
• [学会発表] 原子核乾板による100 MeV級レーザー加速プロトン計測 (2019)
  • 著者名/発表者名: 浅井孝文、金崎真聡、神野智史、北川暢子、首藤信通、小平 聡、山内知也、小田啓二、森島邦博、福田祐仁
  • 学会等名: 第80回応用物理学会秋季学術講演会
• [学会発表] Application of nuclear emulsions to laser-driven ion acceleration experiments using micron-sized hydrogen clusters (2019)
  • 著者名/発表者名: Takafumi Asai, Masato Kanasaki, Satoshi Jinno, Nobuko Kitagawa, Nobumichi Shutoh, Satoshi Kodaira, Tomoya Yamauchi, Keiji Oda, Kunihiro Morishima, Yuji Fukuda
  • 学会等名: 光・量子ビーム科学合同シンポジウム2019