研究課題/領域番号 |
19H00685
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
増田 孝彦 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任准教授 (90733543)
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研究分担者 |
北尾 真司 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (00314295)
山口 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70724805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トリウム229 / 核共鳴散乱 / 核異性体 / 原子核時計 |
研究実績の概要 |
能動的核異性体生成に必要不可欠であったX線絶対エネルギー測定の手法(ボンド法)について、詳細をまとめ原著論文として報告した。最終的な系統誤差評価において、これまで考慮していなかったビーム照射中のシリコン結晶中でのローカルな温度勾配について有限要素法を用いたシミュレーションを実施し、系統誤差に対して温度計の校正と同程度の寄与を与えることが判明した。全体からすると無視できる程度である。系統誤差の中で最も大きいものは自己校正型ロータリーエンコーダーSelfAによる角度測定による部分であることが確認できており、その角度精度もこれまでSelfAで報告されている精度と同程度のため、信頼性の高いエネルギー測定結果が得られた。 アイソマーからの真空紫外光発光探索では、新たに導入した光線追跡シミュレータを用いる事で、幾何効率の詳細見積もりが可能となった。特にトリウム標的を1mm角の結晶としたことで、結晶ホルダーによる遮光効果が大きくなってしまうことが判明した。50ミクロン径のステンレスワイヤによる結晶保持機構を新たに設計し、実験に導入した。これにより幾何効率12.7%、最終光学系を含めて8.7%の幾何効率を確保している。 並行してビーム試験を行い、280nm程度に感度を持つCCDカメラで、実際に結晶からの発光イメージを捉えることに成功した。今後シミュレーションと組み合わせることで、幾何効率の定量化を進める基礎データとできる。 そのほか、信号光と背景光の切り分けに、従来の透過型波長選択フィルタから反射型の多段フィルタに変更することで、信号検出効率を維持したまま消光比を改善できることを考案し、プロトタイプの反射型フィルタを製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にも記した通り、X線絶対エネルギー測定の手法(ボンド法)について、本年度中に系統誤差の考察を完了させ、原著論文として報告することができた。 真空紫外光探索の実験設計については、光学シミュレータによる信号検出感度の定量化、反射型多段フィルタの考案による信号雑音比の向上など、着実に進展している。特に反射型フィルタの基材についてフロートガラス・N-BK7・合成石英を試した。トリウム229やその娘核の崩壊に伴い発生するシンチレーション光の除去の観点で合成石英プリズムが適していることを確認した。 見積もりによるとアイソマーからの真空紫外光発光観測の可能性は十分ある感度に達しているが、ビーム実験ではまだ信号の観測には至っていない。探索波長域の不足によるものか、アイソマーの性質(寿命が想定より短いなど)によるものかなど、いくつか原因が考えられるため、より広いパラメータスペースを探索する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
アイソマーのエネルギーや寿命などのパラメータが想定通りであれば、真空紫外光発光観測の可能性は十分ある感度に達しているが、ビーム実験ではまだ信号の観測には至っていない。探索波長域の不足によるものか、アイソマーの性質(寿命が想定より短いなど)によるものかなど、いくつか原因が考えられるため、より広いパラメータスペースを探索する必要があると考えられる。 特に探索波長域は反射型フィルタを交換することで拡張できる。2021年度は反射型フィルタの量産を行い、信号探索波長域を拡大する。2020年度の研究開発で、フィルタの基材には合成石英のプリズムが適していることが判明したので、本年度も合成石英プリズムによる反射型フィルタを製作する。 誘電体多層膜コーティングで高反射ミラーを作成する必要があるが、これまでの研究で、本研究で使用するような真空紫外光領域では、製造過程のちょっとした擾乱で特性が変わってしまうことが懸念されるため、試作と評価によるイタレーションを行う必要があると見込んでいる。
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