研究課題/領域番号 |
19H00685
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
増田 孝彦 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任准教授 (90733543)
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研究分担者 |
北尾 真司 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (00314295)
山口 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (70724805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トリウム229 / 核共鳴散乱 / 核異性体 / 原子核時計 |
研究実績の概要 |
2020年末より開始した、誘電体多層膜コーティングを施した直角プリズムを用いた多段反射型フィルタによる波長選択を中心に研究開発を進めた。反射波長域が真空紫外光領域のため市販品では対応できず、国内の光学メーカーに製造を依頼し、試作を繰り返した。当初はピーク反射率60-70%程度しか得られなかったが、試作を繰り返すことで最終的には90%程度の反射率をコンスタントに出せるようになってきている。ビーム実験では製造したプリズムミラーを4つ組み合わせ信号雑音比を改善する。特に本年度初頭に考案した、3次元的にプリズムを配置することによる偏光を活用した背景光の削減によって、大幅に信号雑音比を改善することができた。 複数回の製作を繰り返した結果、信号があると予想される波長域をある程度カバーするプリズムセットを準備することができた。これらのプリズムセットを用いてビーム実験を行い、信号寿命を10^2から10^5秒程度を仮定して真空紫外光探索を行なった。実験では昨年度より使用している1mm^3のTh:CaF2結晶にX線を照射し、第二励起準位へ共鳴励起させる。仮定した寿命程度の時間照射し、その後の脱励起光を寿命程度の時間観測するというものである。現在は実験結果を精査している段階であり、来年度の早い段階で原著論文としての出版を計画している。 並行して、さらなるプリズムミラーの高度化、標的ホルダや集光ミラーの最適化など幾何効率の改善を念頭にセットアップの高度化も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
真空紫外領域の誘電体多層膜プリズムミラー製作の難易度が高く、当初の想定よりも試作回数を重ねる必要があった。本年度末の時点でまだ性能向上の余地はあると考えられるが、実験感度や生産安定性等もふまえ、来年度の製作スケジュールを検討する必要がある。 また既に信号感度としては、アイソマーからの脱励起に単純な発光モデルを仮定すると、先行研究との矛盾が懸念される可能性がある。矛盾の原因を突き止めるため、実験装置の詳細な特性評価を行い実験感度を精度良く抑えることが必要である。また理論面でも例えば標的内で真空紫外光を発さずに基底状態へ遷移するというプロセスが存在すれば想定よりも信号光が減少するため、そのようなプロセスが存在しうるかなど、検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、本年度取得したデータを用いて、アイソマーの寿命、エネルギーの範囲についての結果をまとめる。実験感度の定量評価、CaF2結晶内の不均一幅によるアイソマー信号の振る舞いの変化などを抑えていく。 並行してCaF2結晶内でのトリウム原子の状況の考察が必要である。特に、非発光過程による脱励起が存在しうるか、結晶製作を担当している共同研究者らと議論しつつ、可能であれば実験的に評価する手法を検討する。トリウム原子核時計の応用形態の一つである可搬型原子核時計では結晶にドープしたトリウム229を使用する方法で検討されているため、結晶内でのトリウム229の状態を把握するのは、将来的な面でも重要な課題である。
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