研究課題/領域番号 |
19H00686
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
笹尾 登 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任教授 (10115850)
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研究分担者 |
宮本 祐樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 研究准教授 (00559586)
平木 貴宏 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (40791223)
原 秀明 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特別契約職員(助教) (70737311)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アクシオン |
研究実績の概要 |
今年度においてはEr3+ :YSO結晶(Y2SiO5)における超放射観測を目指した。この結果、周期的な放射を繰り返す超放射現象を発見した。この現象の特徴は以下のとおりである(結晶温度は約4K度)。超放射の周期は平均160マイクロ秒である。但し平均値を中心に50マイクロ秒程度のランダムな変動がある。1つの超放射パルスの時間幅は典型的には30ナノ秒であり、これも20ナノ秒程度の幅で変動する。また超放射パルスは概ね10^12個程度の光子から成り立つ。超放射はほぼ単色であり(波長1.55マイクロメートル)、その線幅は100MHz程度以下である。測定された線幅は、結晶が有すると予想される不均一幅(1GHz)に比較して小さい。標的を変化させると閾値(約20K程度)が確認され、それ以上になると超放射は観測されなくなる。周期的な超放射現象は、知る限り報告されておらず興味深い現象であるといえよう。 一方理論面では、引き続き様々な検討を行った。主たる成果は以下のとおりである。まず本実験は、アクシオンのみならず、ダークフォトンと呼ばれる暗黒物質候補にも感度があることを確認した。ダークフォトンは宇宙のインフレーション中に生まれるという予想もあり注目されている。また実験の観点では磁場を必要としないため、実験がやや容易となる。標的候補として冷却されたアルカリ原子を用いることも検討した。冷却アルカリ原子は十分実績のある標的である。但し我々が必要とする数量に到達するには、技術的なブレークスルーを必要とされる。我々はアルカリ原子の中でも、レーザーをより容易に準備することが可能なセシウム(Cs)原子を用いることとした。今後は、標的として、結晶及びセシウム原子の両方を理論・実験の両面から検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度においてはEr3+ :YSO結晶(Y2SiO5)における超放射観測を目指したが、この結果、周期的な放射を繰り返す超放射現象を発見した。このような現象は、我々の知る限り過去に報告はなく、興味深い現象と言える。一方、理論面ではダークフォトン暗黒物質に対する感度の計算、冷却アルカリ原子標的の検討を行った。以上の成果は重要であり、今後の研究の大きな礎となるものである。但し全体の研究の進展については、コロナ感染の影響もあり、やや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度においては、本研究がアクシオン暗黒物質と共に、ダークフォトン暗黒物質にも優れた感度を持つことを示し、理論面において研究が進展した。ダークフォトン暗黒物質の探索は、アクシオン暗黒物質探索とほぼ同一のセットアップで遂行可能である。実験技術の観点では、磁場を必要としない、あるいは比較的少数の標的粒子でも感度がある等の点でより容易となり得る。以上を踏まえ、結晶標的と共にCs原子Magneto-Optical-Trap (MOT)標的を開発する。年度の前半では、レーザー系の開発を進めるとともに、常温セルを用いていわゆるDoppler Free Spectroscopyを行う。これにより、レーザー系や光学系を確立する。またMOT真空槽やMOTに必要な磁場の整備をおこなう。またEr3+:YSO結晶(Y2SiO5)実験については、現象を説明する理論模型とそれに基づくシミュレーションを構築する計画である。
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