研究課題
宇宙暗黒物質を探索するためのタリウム添加ヨウ化ナトリウム結晶の高純度化に取り組んだ。完成に向けて浜松ホトニクスの低バックグラウンド光電子増倍管(R11065-20)を整備した。納品された光電子増倍管は、岐阜県飛騨市の東北大学ニュートリノ科学研究センターのKamLAND実験エリアに保管し、宇宙線による放射化を避けている。宇宙暗黒物質探索用のNaI(Tl)結晶を高純度化させるために、再結晶法と樹脂法の組み合わせを検討した。再結晶法によってカリウム40を効果的に除去することに成功した。ヨウ化ナトリウムの飽和水溶液を冷ますことによって析出するヨウ化ナトリウム粉末と、水に溶けたままのカリウムイオンとを分離し、これまで120 ppbまで低減できていたカリウムの不純物濃度を検出限界の20 ppb以下まで低減させることに成功した。宇宙暗黒物質探索に対して深刻なバックグラウンドを発生させる鉛210の除去は、再結晶法では不十分であった。そこで、以前成功したことのあるイオン交換樹脂による除去方法を試みた。候補となる多数の樹脂による除去効果を、これまでの方法で確認することは困難であったため、鉛を添加したヨウ化ナトリウム水溶液を各種樹脂に通して鉛イオンの除去効果を確認した。その結果、使用すべき樹脂の組み合わせを最適化することに成功した。上記の成果は、ダークマター懇談会2019(2019年7月5日)、SMART2019 (2019年11月18日)、SCINT2019(2019年10月4日)などの招待講演およびキーノート講演のほか、国際シンポジウムTAUP2019(2019年9月11日)の口頭講演およびポスター発表などで報告した。2020年3月には極低バックグラウンド技術研究会の招待講演で成果を報告する予定であったが、コロナウイルスの影響によって研究会が中止となり、旅費を一部繰り越しすることになった。
1: 当初の計画以上に進展している
宇宙暗黒物質探索に向けて、必須条件となる検出器内の放射性不純物を確実に除去する方法を確認する事が出来た。この方法を応用することによって世界最高純度のタリウム添加ヨウ化ナトリウム結晶を製造することが出来るようになった。この成果を応用して宇宙暗黒物質探索実験の高感度化にブレークスルーをもたらすことが可能になる。宇宙暗黒物質探索装置の純度を確認する方法として、これまでは個々に検出器を製造し、低バックグラウンド測定を行なってきた。しかし、この方法ではコスト(20~50万円程度の旅費と検出器製造費70万円)と時間(少なくとも1ヶ月の測定期間)が必要であり、開発のサイクルが遅くなっていた。本研究では、純度の確認に高感度のICP-MSを応用することによって純度の低減をある程度確認する事ができ、開発のスピードを大幅に上げることに成功した。宇宙暗黒物質探索実験に悪影響を与える鉛210を効果的に除去することが出来る手法を、幅広く試み、高速な分析方法によって確実に除去できる最適解を求める事に成功した。
本年度予算で確定した純化方法を適用して、NaI(Tl)結晶内に含まれる放射性不純物の濃度を測定する。測定結果を確認しながら大型のNaI(Tl)検出器モジュールを建設して宇宙暗黒物質探索実験を開始する。
(2) のホームページは2021年5月中に公開予定。
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