研究課題/領域番号 |
19H00689
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
北野 龍一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (50543451)
|
研究分担者 |
山崎 雅人 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (00726599)
山田 憲和 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (50399432)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 素粒子論 |
研究実績の概要 |
素粒子の世界では、標準理論というゲージ理論を基礎とした理論に従って運動が記述される。ゲージ理論は光子やグルーオンといった質量を持たない粒子を記述するために人間が発明した道具であるが、その性質の一つにゲージ場が時空に巻き付くことが挙げられる。一見、単なる数学的可能性で物理には影響がなさそうであるが、真空の構造に多大な影響を及ぼすことが知られているうえに、その理解は完全に得られていない。2021年度に行った研究では、コンピュータ上にゲージ理論を実現する格子シミュレーションを用いて、ゲージ場の巻き付き加減をコントロールするパラメータであるθ項について調べた。特に、θ=πにおける真空構造を調べるために、時空の一部分にθ項を導入する方法を開発した。非可換ゲージ理論に現れる閉じ込めの性質がθパラメータとともに変化するかどうか、また、時間反転対称性の自発的破れが起こるかどうか、特にSU(2)ゲージ理論について調べた。新しい手法により、これまでに到達できなかった領域までシミュレーションが可能となり、自発的対称性の破れの示唆を得ることができた。その他、宇宙の暗黒物質がθ項に対応する場であるアクシオンである可能性について新しいシナリオを提案したり、ヒッグス場とゲージ場の巻き付きによって準安定な暗黒物質の候補が実現する可能性など様々な研究成果を得た。トポロジーに関する数理的な研究も並行して行った。場の理論のトポロジーを研究するのは一般には容易ではないが,適切な極限を取ることで複雑な場の理論からトポロジカルな場の理論を抽出できることがある。山崎らは3次元で8個の超対称性を持つ場の理論の例について、その分配関数からユニタリーではないトポロジカルな場の理論が取り出せるという予想を提出し、その主張を具体例で確かめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値シミュレーションの新しい手法により、これまでに到達不能であったθの領域を調べることができている。また、場の理論のトポロジーに関する様々なテーマについて新しい知見をえることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
θと温度をパラメータとしてSU(2)ゲージ理論がどのような相構造をもっているのか、数値シミュレーションにより調べることを目標にする。θも温度も時空の一部分について変更を加えることが可能で、その方法は経路積分における数値的な相殺の問題(サイン問題)をうまく回避できる可能性があるが、同時に相転移を見逃す可能性も考えられる。一般にどのような場合に信頼のできる計算結果が得られるか精査する。また、ゲージ理論とトポロジーは量子アノマリーと深い関係にあり、特にアクシオンやモノポールなどの物理にはそれらが絡み合って出現する。これらの物理の基礎的理解に向けた研究も進める。
|