研究課題/領域番号 |
19H00695
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
西山 正吾 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (20377948)
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研究分担者 |
斉田 浩見 大同大学, 教養部, 教授 (80367648)
高橋 真聡 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242895)
孝森 洋介 和歌山工業高等専門学校, 総合教育科, 准教授 (30613153)
美濃和 陽典 国立天文台, ハワイ観測所, 准教授 (60450194)
Guyon Olivier 国立天文台, ハワイ観測所, RCUH職員 (90399288)
Lozi Julien 国立天文台, ハワイ観測所, RCUH職員 (20806658)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 観測天文学 / 赤外線分光 / ブラックホール / 補償光学 / 一般相対性理論 / 銀河系 / 波面センサー |
研究実績の概要 |
本研究は、強い重力場における物理法則の検証を目的としている。銀河系の中心にあるブラックホールを周回する星の視線速度を詳細に観測することで、ブラックホールが作る重力場や、星から届く光の波長の変化の情報を得る。これらを使って物理法則の検証を行う。 最初の2年間で、この目的の一部をすでに達成することができた。2014年から始めた私たちの観測データと、海外の望遠鏡で得られた過去のデータを合わせることで、物理法則の検証が可能になった。まず巨大ブラックホールを周回する星の運動を記述するためには、古典力学(ニュートン力学)ではなく、一般相対論がより適切であることを観測と理論計算から示した。特に2018年の観測データの中に、ニュートン力学では説明できない一般相対論効果を検出することができた(Do et al. 2019, Science)。しかしさらに詳しい解析では、この違いをより明確に示すためには、現状の測定精度ではまだ不十分であることも示した(Saida et al. 2019, PASJ)。この結果を受けて、すばる望遠鏡の新しい装置の開発を進めている。 本研究では、より高精度の分光観測を行うために、すばる望遠鏡の補償光学装置に搭載する赤外波面センサーを開発する。現段階までに、赤外波面センサーの光学系、機械系の設計が完成した。必要な物品の調達も終了している。赤外波面センサーに必要な近赤外線カメラの選定、調達、設置を終了した。カメラをコントロールするソフトウェアと、読み出し回路の組み込みも終了している。さらに、PCを用いたデータ収集システムの開発を進めている。CACAOというソフトウェアの枠組みを基にして、装置をコントロールするソフトウェアの動作確認も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究以前に得られた観測データも用いて、2つの課題について大きな成果をあげることができた。ひとつはブラックホールを周回する星の観測を通した、一般相対論の検証である。銀河系の中心にあるブラックホールを周回する星を詳細に観測することで、ブラックホールが作りだす重力場の影響を測定した。その結果、まだ観測精度に改善の余地はあるものの(Saida et al. 2019, PASJ)、ニュートン重力よりも一般相対論の方が、観測結果を正しく説明できることを示した(Do et al. 2019, Science)。この結果は科学雑誌サイエンスに掲載された。 また計画段階では想定していなかった方法を使って、物理定数の普遍性の検証を行った。巨大ブラックホールの強い重力場にある星の中には、多数の吸収線を示す低温の星もある。その星の吸収線の波長と、実験室で得られる波長を比較することで、微細構造定数の変化の有無を検証することができる。私たちの研究では、微細構造定数の変化は100,000分の1以下である、という制限を得た。 地上の実験室ではさらに強い制限が得られている。しかし私たちは、ブラックホール近傍の強い重力場という、地上では再現できない環境での微細構造定数の検証を初めて可能にした。この成果はPhysical Review Lettersに発表した(Hees et al. 2020)。 赤外波面センサーの開発は着実に進んでいる。光学系、機械系の設計を終え、必要な物品を調達し、必要なソフトウェアの開発も進んでいる。順調に進んでいる装置開発に加え、計画時にはなかった新しい手法で物理法則の検証が可能であることを示せたので、当初の計画以上の進展があったと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、星のモニター観測が重要である。出来るだけ毎年星を観測して、そのスペクトルを得たい。2021年度には6月に2回、すばる望遠鏡を用いた観測が予定されている。この機会を使って、引き続きデータの取得を続ける。本来の予定では、2020年の観測から、すばる望遠鏡の新しいレーザーガイド星システムが使える予定であった。現在でもまだ開発が終了していないため、それを使った観測はできない。よって当初に期待していた測定精度は、2021年6月には達成できなさそうである。しかし引き続き観測を続けていく。 上記のように、赤外波面センサーの設計を終え、開発に必要な物品の調達も完了した。2021年の夏には、望遠鏡サイトに置ける組み立てと開発を予定している。新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けてはいるものの、予定通り2021年度中の観測を目指して、開発を進めている。
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