研究課題/領域番号 |
19H00698
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
河合 誠之 東京工業大学, 理学院, 教授 (80195031)
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研究分担者 |
谷津 陽一 東京工業大学, 理学院, 准教授 (40447545)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 紫外線天文学 / 突発天体 / 重力波 / 超新星 / 超小型衛星 |
研究実績の概要 |
R2年度の概念設計をベースに、実際の人工衛星のシステム設計、すなわち機器レイアウト、太陽電池・蓄電池のサイジング、通信回線設計、運用手順検討を行った。6月の設計審査会にてミッション要求が満たされることを確認し、衛星搭載品の購入を開始した。 ロケットとのインターフェース調整では、衛星引き渡しに10ヶ月も先行して衛星質量・重心位置・慣性モーメント等の提出を求められたが、この時点では構造設計が固まっていなかったため、大まかなレイアウトから推測した予測値を提出した。一方、JAXAから要求されている重心位置の許容誤差は、機軸方向±15mm、機軸直交方向に±5mmと大変厳しいものであったが、開発期間が足りないため、フライトモデルを微調整してこの範囲に合わせ込むこととした。 一方、6月にはロケット事業者から、ロケットエンジンからのコンタミネーション付着の予測値が報告された。紫外線は有機物によって簡単に吸収されてしまうため、検出感度に影響するおそれがあったため、急遽望遠鏡の開口部に開閉式のコンタミカバーを設置することとした。開閉機構は万が一展開できない場合、ミッション失敗につながるため、太陽電池パドルと一体とする案など複数案を検討し、姿勢安定度や設計難易度、重量制約等を勘案して設計し、上記質量特性の設計値に盛り込んで提出した。 この開発と並行して、紫外線観測に必須となる恒星姿勢センサ(STT)の開発を行い、HIBARI衛星に組み込んで打ち上げた。このセンサは地上試験でのクロスボアサイトでの姿勢決定性能が±2秒角(1σ誤差)と同一クラス内では世界トップレベルの性能を達成し、軌道上でも設計通りの動作が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年に本衛星の概念を提案した当初は、姿勢制御実験と紫外線観測を同時に行う衛星となっていたが、技術的な実現性を検討した結果、姿勢制御実験をHIBARI衛星で選考して実証し、洗練されたバスをつかって紫外線観測を実施することにした。結果として、2021年度にHIBARI衛星は軌道上で動作し、Extra Successを達成し、紫外線観測の要となる恒星姿勢センサやリアルタイム通信機等、国内に存在しなかった技術を独自に設計・開発して軌道上で動作実証まで完了することができた。これは科学研究枠を越えてすぐに事業化可能なレベルの成果である。実際、STTの技術開発については経産省から高く評価され、その一層の高性能化・高機能化のための補正予算(R2補正宇宙開発利用推進研究開発(小型衛星コンステレーション関連要素技術開発(軌道・姿勢制御技術 (うちスタートラッカー))を申請し採択されるに至っている。 一方で、JAXA側から打ち上げロケット変更の打診を受けた。コロナ禍にあり、部品調達が遅延していたことを勘案してこの申し出を受諾した。結果としてフライト当初予定していた2022年10月のイプシロンロケットを見送り、2023年3月の打ち上げを想定して開発工程の見直しを行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年末にJAXAから提案された新しい打ち上げスキームでは、海外のロケットを使いつつも、ロケットと衛星の間に緩衝材を設けることで、振動環境をイプシロン相当にすることになっており、衛星側の構造設計は変更する必要が無い。一方、コロナ禍に半導体部品の長納期化が問題となっているが、なんとか半年のフライト遅延により部品が手に入る見通しは立っている。一方、オンボードコンピュータについては既に試作が完了しており、HIBARIのバックアップと接続してデバッグを行いながら、フライトソフトウエアの開発・デバッグを入念に行い、確実にフライトに間に合うよう開発をプロジェクトを推進する。 紫外線観測衛星は、大学衛星とは言え本格的な天文観測を目指している。従って、姿勢制御に要求される性能は大型衛星並みとなっている、また、重力波検出に対して緊急対応観測を行うための仕組みなど、JAXAの大型衛星とも全く異なる洗練されたシステム設計・運用設計が要求される。 これらについては、産学連携の枠組みで協力してくれている株式会社アイネットから技術アドバイスを得ながら設計・開発・実装を進める。
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