研究課題
2019年度は、瞳収縮分光器の実験において次の大きな進展があった。一つ目の進展は、Matsuo et al. (2016)の論文で述べた理論の通りに正しく瞳収縮分光器の分光像が取得されたことである。瞳収縮分光器は、瞳を分割・収縮することによって、光の回折を起こして、分光器内で波動光学的な伝搬を利用するものである。ちなみに、従来の分光方式では、分光器内は幾何光学的な伝搬である。つまり、瞳収縮分光器は、従来の分光器と比べて全く新しい方法を利用した分光器である。この瞳収縮分光器の像が予想通りに取得できたことは、分光器の内部を光が波動光学的に伝搬していることを示しており、実験実証に成功したと考えている。二つ目の進展は、中間赤外線検出器システム単体での安定性の評価を実施したことである。これまで、検出器単体の安定性を評価することができなかった。NASA Ames Reserach Centerとの協力において、検出器の安定性評価のための実験環境を整備し、12時間以上にわたって検出器の安定性を評価した。その結果、検出器システムの安定性を数ppmレベルで評価することに成功し、検出器単体では30 ppmの安定性に制限されることが分かった。さらに、瞳収縮分光器で取得される像のように多数のピクセルで光を検出する場合には、その安定性が数ppmレベルまで改善されることが分かった。この結果は、Matsuo et al. PASP, Vol. 131, pp. 124502に出版された。最後の進展は、この実験環境を瞳収縮分光器の実験にも応用し、瞳収縮分光器の安定性の評価を行なった。その結果、系統誤差は10ppmレベルにまで抑えることができ、本プロジェクトの目標の一つをクリアできた。この結果は、2020年のSPIEの国際会議で報告された。
2: おおむね順調に進展している
2019年度の当初の目標は、瞳収縮分光器の実証実験と望遠鏡の姿勢を模擬する望遠鏡シミュレーターの製作を行うことであった。前者については、研究実績の概要において述べたように、分光器の安定性を評価するための実験環境を作成することに成功し、瞳収縮分光器の実証実験の中で安定性の評価が実施できた。一方の後者については、望遠鏡シミュレーターの設計および物品の選定は固まったものの製作までには至らなかった。ただし、2020年末に望遠鏡シミュレーターが完成し、実証実験に必要な仕様を満たしていることが確認できた。以上より、当初計画していた項目の全てを完了することはできなかったものの、本プロジェクトにおいてクリティカルな項目の多くをクリアしたと考えている。
望遠鏡の姿勢を模擬する望遠鏡シミュレーターが完成した。今後、望遠鏡シミュレーターをNASA Ames Research Centerに輸送し、そのシミュレーターに中間赤外線検出器を取り付けて、極低温下においてシミュレーターが動作することを確認する。さらに、シミュレーターと瞳収縮分光器の接続に問題ないかを確認した後に、シミュレーターで望遠鏡の姿勢を模擬した光を瞳収縮分光器に導入する。姿勢の変化に対する分光像の安定性を評価し、瞳収縮分光器によって検出器に形成される瞳分光像の有用性を評価する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Proceedings of the SPIE
巻: 11443 ページ: 8 pp
10.1117/12.2560421
Publications of the Astronomical Society of the Pacific
巻: 131 ページ: 124502~124502
10.1088/1538-3873/ab42f1